玉川豆知識 No.76
「神なき知育は知恵ある悪魔をつくることなり」と「慧眼見真」
大学8号館の玄関には、左右に一つずつ小原國芳揮毫の碑が置かれています。1966(昭和41)年に完成したものです。いずれも理工系の者が陥りやすいといわれる、唯物的な考え方にならないようにとの願いが込められています。


1.「神なき知育は知恵ある悪魔をつくることなり」
大学8号館の玄関に向かって左側の黒御影石に彫られているのが「神なき知育は知恵ある悪魔をつくることなり」という言葉です。

大学8号館の以前の名称は工学部校舎。現在も、大学8号館を主に使用しているのは工学部の学生です。そのため、「神なき知育は知恵ある悪魔をつくることなり」の碑の設置には、「科学技術の進歩は、明と暗の両面を持つ。平和利用されれば人間社会を豊かにし、戦争に利用されれば多くの人間の命を奪う。この言葉には、“人間至上主義的・科学万能主義的な考え方や教育が、人の姿をした悪魔をつくっているのではないか。科学技術を学ぶ者も、人間を超越した存在を知り、神を畏怖する心を持った人でなくてはいけない”」との、玉川学園創立者小原國芳の強い願いが込められています。
國芳はよく、「ガリレオは、『神なき知育は知恵ある悪魔をつくることなり』と厳しく教えてくれました」と言っていました。しかし、ガリレオの残した言葉にはそのようなものは見当たりません。國芳編『眞人の言葉』(昭和10年発行)にも載っていますが、ウェリントンの「宗教なき教育はただ悧巧なる悪魔を造るなり」(Educate men without religion, and make them but clever devils.)を國芳がアレンジしたのではないかと思われます。


発行1カ月で5版を重ねた
『全人』第817号(玉川大学出版部発行)の「故きを温ねて」に次のような記述があります。
碑文はこの言葉をアレンジした小原國芳の金言としてよいだろう。ウェリントンはナポレオンとのワーテルローの戦いで勝利した英国貴族であった。
碑が設置された2年後の2月、特撮テレビ映画『ウルトラセブン』「空間X脱出」(第18話)が放映された。当時大きな話題となったこの劇中、地球侵略をねらう宇宙人から地球を守るキリヤマ隊長が「神なき知育は、知恵ある悪魔をつくることなり。どんなに優れた科学力を持っていても、奴は悪魔でしかない」と部下に語るシーンがある。
脚本を書いたのは円谷プロダクション所属の金城哲夫で、本学文学部教育学科1961年度の卒業生。小原の話を覚えていたか、碑文を見ていたのであろう。

2.慧眼見真
大学8号館の玄関に向かって右側の黒御影石に彫られているのが「慧眼見真」(えげんけんしん)という言葉です。

國芳は著作『全人教育論』(玉川大学出版部発行)で「慧眼見真」について、次のように述べています。
一、智慧、二、学問と!この生きた眼光紙背に徹するような慧智が崇いのだと思います。
仏教では眼玉を五つに分けてあるようです。肉眼、天眼、法眼、慧眼、仏眼と。
「大無量寿経」の「慧眼見真」という名句を、特に、私どもの大学の工学部玄関の入口に、大きく彫刻したわけです。

右側の黒御影石に彫られた「慧眼見真」という言葉は、上述のとおり「大無量寿経(だいむりょうじゅきょう)」(浄土三部経の一つ)の中の一句である「慧眼見真、能度彼岸」から選ばれたものです。“諸事物が空であることを見る知恵の眼、知恵に依って、真実の理を見抜き、ものを正しく観察する眼”という意味だと言われています。
参考文献
- 小原國芳著『全人教育論』 玉川大学出版部 1969年
- 小原國芳編『金言名句集 眞人の言葉』 玉川學園出版部 1935年
- 白柳弘幸著『故きを温ねて』(『全人』第817号 玉川大学出版部 2017年 に所収)
- 『玉川学園の教育活動 玉川大学の教育活動(2008~2009)』 玉川学園 2008年