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玉川豆知識 No.77

欧州演奏旅行での大きな収穫

1984(昭和59)年、玉川学園高等部吹奏楽部がウィーン青少年音楽祭に日本代表として参加し、総合優勝のウィーン大賞をはじめ、学校の部第1位を獲得。また、ORF(オーストリア国営放送)特別賞を受賞。その嬉しさもさることながら、それ以上に、参加した生徒たちは大きな収穫を得たのでした。

1.日本の代表として「ウィーン青少年音楽祭」に参加

玉川学園高等部吹奏楽部(以下「本学吹奏楽部」という)一行(生徒50名、引率6名)は、1984(昭和59)年7月7日からオーストリアのウィーンで開かれた「ウィーン青少年音楽祭」に日本代表として参加しました。また、音楽祭とは別に、音楽祭事務局からの依頼でウィーン市ならびにその近郊、さらにはハンガリーの首都ブダペストで、単独演奏会を数回行いました。

本学吹奏楽部がウィーン市街をパレード
① オープニングセレモニー

音楽祭のオープニングセレモニーでは、シェーンブルク宮殿の前庭に集合した参加27団体、1,200人の参加者が、参加団体ごとに、正門から宮殿前までの約200メートルを行進。本学吹奏楽部は6番目。プラカードを先頭に団旗、国旗、オーストリア旗、大会旗、玉川旗が続き、揃いのユニフォームに身を固めた生徒たちがその後を整然と行進しました。そして、全ての参加団体が一緒になって、オーストリア国歌や課題曲「ラデッキー行進曲」など数曲を演奏しました。

② コンテスト

音楽祭のコンテストは何日かに分けて実施されました。本学吹奏楽部は最終日の4番目の出場。課題曲は「デューク・オブ・ケンブリッジ」と「キング・コットン」。自由曲は「祝典序曲」と「バッカナール」。課題曲2曲と「祝典序曲」は順調に演奏が終了。最後の曲「バッカナール」の演奏の時には、出発前の演奏会で演奏がうまくいかなかったこともあり生徒たちの緊張は最高潮に。しかし、出発前の演奏会の時とは別人のように、生徒たちはそれぞれのパートの役割をしっかりと果し、今までにない最高の演奏を行いました。

③ ORF(オーストリア国営放送)の公開録音とマチネーコンサートへの出場通知

昼食後、休む間もなくORFの公開録音。事前のテープ審査で選ばれた8団体が出演。コンテストに続いて同じ日に2回目の演奏だったこともあり、うまく演奏できるか心配されましたが、ここでも素晴らしい演奏を披露。宿舎に戻ると、上位の団体のみが出場できる演奏会であるマチネーコンサートへの、本学吹奏楽部の出場を知らせる電報が届いていました。

2.ウィーン大賞を受賞

① マチネーコンサートに参加

今回のマチネーコンサートは学校4団体、一般3団体の出演となり、その中で本学吹奏楽部は一番最後の出演となりました。そして、最後に演奏する団体は、委員長のノースロップ氏の指揮での「キング・コットン」と、イギリスの審査員エバンス大佐の指揮での「ラデッキー行進曲」を演奏することが、当日のリハーサル時に知らされました。まったくそんなことを予想していなかった生徒たち。でも本番では見事に演奏。ノースロップ氏は「パーフェクト」とその演奏を讃えてくれました。

ウィーン青少年音楽祭の表彰式の前に行われたマチネーコンサート
② 表彰式
ウィーン大賞の賞状とカップが大会委員長から
指揮者の木村先生に手渡される

最後の曲、「バッカナール」を演奏し終わった本学吹奏楽部の生徒たちはステージ上に残り、表彰式が行われました。そして、ORF特別賞が玉川学園に与えられました。次の学校の部、一般の部別の発表では、学校の部一位に本学吹奏楽部が輝き、ウィーン青少年音楽祭優勝トロフィーを手にしました。さらに総合優勝の意味を持つウィーン大賞も本学吹奏楽部が受賞。最後に大会委員長が次のような言葉で音楽祭を締めくくりました。

「ウィーンでは数多くの国際会議が開催されます。英語を共通語として行うので言葉は通じあえますが、気持ちはなかなか通じあえません。しかし、みなさんは音楽を通して、見事に気持ちを通じあわせることができました」

③ クロージングパレード

音楽祭最後の行事は、クロージングパレード。ステファン教会前広場までの約1キロを歩くことになりました。本学吹奏楽部は12番目のスタート。先日の結果を知ってか、一段と大きな拍手がおこりました。そして全団体が広場へ集合後、合同演奏で幕を閉じました。

3.人々のあたたかさに感激

① 宿舎に戻って

表彰式終了後、宿舎に帰ると事務長のビスター氏が受賞を大変喜んでくれて、次のような昨年のエピソードを語ってくれました。

「昨年、日本の団体とイギリスの団体がここに一緒に宿泊しました。イギリスの団体は日本に勝とうと一生懸命に練習したのですが、結果は思うようになりませんでした。日本の団体より先に宿舎に戻ったそのイギリスの団体は、宿舎の入口に集合、整列し、日本の団体が帰ってくるのを拍手で出迎えたのです」

② 表彰式で

今回の音楽祭でも、本学吹奏楽部がウィーン大賞を受賞した際に、何の賞も受賞できなかった参加者たちまでもが立ち上がって祝福してくれました。自分たちが目指していた賞を獲得できなかったのにもかかわらず、こちらが胸を打たれるほどまでに祝福してくれた他国の生徒たちのあたたかさに、本学の生徒たちはとても感激していました。

③ パレードで
ルッツマンスブルクでの演奏会
指揮者をはじめ何人かが民族衣装を着て演奏

また、こんなこともありました。インスブルック市主催の日本週間の一番はじめの演奏として、市の中心、マリアテレジア通りの記念塔の前で、お披露目の演奏を行ったときのことです。その記念塔までの大通り約200メートルを、パトカーが先導してくれてパレードが行われましたが、演奏中はバスと市電以外はすべて通行止め。予告もなしに警察官が車を停止させます。普通だったらドライバーから不満の声が出てもおかしくありませんが、車から降りたドライバーの表情はニコニコ顔で、「運がいいですよ、良い音楽が聴けて」とコメント。そして、やんやの拍手をおくってくれました。さらに、大勢の観衆の中から演奏に感激した中年のご夫妻が、かばんをプレゼントしたいと申して出てこられました。このようにウィーンやインスブルックの街では、音楽が生活の一部になっており、生徒たちは人々の音楽に対する愛情の深さに驚いていました。この環境だから素晴らしい音楽が育つのでしょう。

4.不可能を可能にする力

① 思わぬアクシデント

最後の演奏会場であるブレゲンツは、ザルツブルクとならんで音楽祭で有名な所。特に湖上オペラは人気があります。しかしこの街に到着するなり思わぬアクシデントがおこりました。そのことが『全人教育』第435号(玉川大学出版部発行)に次のように記述されています。

7時開演予定が5時開演に変更になっているという。連絡の手違いでそれを知らされたのは、生徒を4時までと自由行動に出した後。時間の変更を申し出るが他の行事の関係で不可能という。全員集合をかけたが開演までに1時間というのは、楽器の運搬・設置、移動、セッティング、着替え、チューニングを考えると何としても不可能。良い演奏には充分な準備が必要。最後の演奏を中途半端に終りたくない。中止も止むを得ない。そんな状態だけに我々の、特に木村先生のショックは大きかった。成り行きを説明し生徒達に相談した。ほとんどの者が演奏しようと手をあげた。各自には相当の決意がみえた。この瞬間、音楽は出来あがった。あとは言葉がいらなかった。助け合い、楽器を運びセットし、滝のような汗を流しながら、誰ひとりとして手を動かさない者はいない、考えられない時間で準備を終った。
    (略)
生徒たちの演奏はすばらしいものであった。その意気込みはコンテスト以上であった。この旅行の最大の収穫である。「良い音楽をする」ということが明確に実践できた。生徒一人一人を抱き締めたい気持ちで握手する。何とすばらしい生徒達であろう。

② 老婦人からのプレゼント

演奏終了後に、一人の老婦人が本学吹奏楽部のところにやって来ました。そのときの老婦人の言葉と、そのやり取りが、『全人教育』第435号(玉川大学出版部発行)に次のように記されています。

「何と感激的な演奏だったのでしょう。私は年金生活で財布の中も残り少ないのですが、このすばらしい若い人達のために何か御礼をせずにいられない気持ちです。どうかこれを受け取って下さい」と四角にたたんだ100シリング紙幣を木村先生に握らせた。金額にすればわずかだがこの気持ちは何万円にも価する。木村先生の感激もひとしお。思い出の指揮棒にサインをしてプレゼント。その人は「一生の宝にします」と大感激。

5.大きな収穫

本学吹奏楽部のこの欧州演奏旅行は、ウィーン青少年音楽祭での優勝による喜びや自信とともに、生徒たちにたくさんの収穫をもたらすこととなりました。『全人教育』第435号(玉川大学出版部発行)に次のように記載されています。

優勝の重み、嬉しさもさることながら、それにも増して大きな収穫は、他国の参加者達があのように盛大に祝福してくれたことに対する新たな驚きと感激、良い音楽には勝ち敗けでなく敬意を払い喜びを感ずる本当の良いマナーに対する尊敬、勝つこと至上主義でなく良い音楽、本当の音楽への感情を知ることができたこと、遠来の友をあたたかく迎える人間味あふれる気持ち、それに人や楽器の運搬、ユニフォーム、印刷物等、地道な部分での父母、卒業生、関係諸氏の協力あっての成功であったことへの感謝等、この演奏旅行を通じて生徒たちが得たものは計り知れず大きかった様に思える。

左からORF特別賞、総合優勝のウィーン大賞、ウィーン青少年音楽祭優勝の各トロフィー

参考文献

  • 小松原誠著『ウィーン青少年音楽祭-玉川学園高等部吹奏楽部欧州演奏旅行-』
            (小原哲郎監修『全人教育』第435号 玉川大学出版部 1984年 に所収)

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