玉川豆知識 No.96

フレーベルと玉川学園

二人の子供に本を読み聞かせているフレーベルの座像が幼稚部の入口にあります。フレーベルは、「Kindergarten―幼稚園」を初めて作ったドイツの教育学者で、「Kommt,lasst uns unsern Kindern leben!(いざ、子どもとともに生きん)」という言葉をモットーとして掲げて、幼児教育を実践しました。

1.フレーベル像

本学の幼稚部の入口に、彫刻家松田芳雄によって制作されたフレーベルの像があります。このフレーベル像は、1975(昭和50)年の5月17日と18日の両日に本学で開催された日本保育学会の初日に完成して、お披露目となりました。当時は玉川池の横に幼稚部があり、その園庭にフレーベル像が置かれていました。

このフレーベル像について、玉川学園創立者小原國芳は『全人教育』第311号(玉川大学出版部発行)で次のように述べています。

二十万坪の玉川としては、せめて十個の銅像が、欲しかったのです。今のところ、音楽部の前のベートーヴェンの雨の中の散歩姿の全身像と、文学部前の世界の宗教哲学の権威波多野精一先生の全身像と、小学部にアンデルセンが子供たち四名と話しとる坐像と、三角点に立っとるスキーのシュナイダーのスキー姿と、これだけです。
ゼヒ、教育学部の前には教育の神様ペスタロッチと、その妻アンナ像。英文科の前にはシェイクスピア像。ドイツ語科の前にはゲーテ像。
  (略)
幼稚園は言うまでもなくフレーベル。しかも、子供を三人も抱いた坐像にしたかったのです。

2.フレードリッヒ・フレーベル

フレードリッヒ・フレーベル(1782~1852年)は、ペスタロッチーに直接師事した経験を持ち、幼稚園の基礎を築いてドイツ全土に広めたドイツの教育学者。世界で最初に幼稚園を創立。幼児教育の父とも言われ、小学校就学前の子供たちの教育に一生を捧げました。彼が幼児教育を実践する際のモットーとして掲げた言葉が、「Kommt,lasst uns unsern Kindern leben!(いざ、子どもとともに生きん)」です。幼稚園(Kindergarten)という言葉は、彼が造った言葉であり、また現在の幼稚園で行われている遊戯や歌や絵を描くことは彼のコンセプトから生れたもの。園庭や花壇といったものも同様です。

『全人』第682号(玉川大学出版部発行)の「故きを温ねて」に次のような記述があります。

フレーベルは世界で最初に幼稚園を創立した人で、「恩物(おんぶつ)」という積み木の原形となった教育遊具を考案したことでも知られる。積み木は一世紀半を経た今日でも、幼児教育の場や家庭で用いられ、フレーベルの名を不朽のものとしている。
小原國芳はフレーベルについて語るとき、「Kommt,lasst uns unsern Kindern leben!(いざ、子どもとともに生きん)」という、ドイツ・シュワイナにあるフレーベルの墓に刻まれている句をしばしば引用した。この言葉は、学園内に私宅を置き、学生たちとともに生活していた小原國芳の生活信条そのものであったのではないだろうか。

フレーベルは、各個人の持つ神性の円満な発達を教育の目的とし、その実現方法として創造的自己活動を提唱しました。そのため、遊戯や歌を重んじ、自ら数々の玩具を考案したそうです。

3.ペスタロッチーとフレーベル

ペスタロッチーは、学校教育を組織的・理論的に基礎づけ、教師や親に対して教育はまず子供を愛し、子供を信じることから始めなければならないと主張するとともに自らも実践し、初等教育の父といわれています。フレーベルは、子供の内に秘められている神性を誕生と同時に育てるべきであると説いて、自らも幼児教育の実践に献身し、幼児教育の父といわれています。

4.フレーベル全集


フレーベルの著書には、『フレーベル自伝』『幼稚園教育学』『人の教育』『母の歌と愛撫の歌』などがあります。また、彼の生誕200年を記念して、その前年に『フレーベル全集』(全5巻)が本学出版部より刊行されました。そして、日本翻訳出版文化賞を受賞。この全集は、ランゲ編『フレーベル全集』の邦訳で、第1巻「教育の弁明」、第2巻「人の教育」、第3巻「教育論文集」、第4巻「幼稚園教育学」、第5巻「続幼稚園教育学 母の歌と愛撫の歌」の全5巻で構成されています。我が国におけるフレーベル研究の第一人者である荘司雅子(広島大学名誉教授、文学博士)を中心に、広島大学と玉川大学の研究者の協力のもと、全集は完成しました。

『フレーベル全集』の完結にあたって、荘司雅子が『全人教育』第395号(玉川大学出版部発行)で次のように述べています。

思えばホテル・ニューオータニで小原國芳先生を中心に、先生から『フレーベル全集』の訳を依頼された玉川大学の先生方と、出版部の方々との集いに私が招かれて、食事を共にしながら、全集の出版計画を承ったのは、五年前の昭和五十年の秋のことであった。
「ペスタロッチ全集が早くから我が国に出ているのに、フレーベル全集が未だ出ていないとは、大学の学者たちの怠慢ではないか」と小原先生は怒気をふくめた情熱的な第一声を発せられた。このお言葉で一同は、一瞬ある緊張を覚えた。それからの話題はもちろん『全集』の内容に集中した。
フレーベルの全集は、ドイツ本国でさえ完全なものは未だ出ていない。
  (略)    
これは日本における最初の『フレーベル全集』であるばかりでなく、フレーベルの著作や論文がこうしてまとまった形で外国語に訳されるのは世界で最初である。

『フレーベル全集』のほか、玉川大学出版部から刊行されたフレーベルに関する出版物は以下のとおりです。(玉川大学出版部図書目録より引用)

『フレーベルの生涯と思想』  荘司雅子著

フレーベルがいかなる世界観・人生観・児童観で、幼児教育を実践していったかを記したフレーベル入門書である。

『フレーベル研究』  荘司雅子著

難解なフレーベル教育学の理論と実際に精密な検討を加え、彼の全体像を総合的に追及したものである。

『フレーベルの思想界より』  E・シュプランガー/小笠原道雄・鳥光美緒子訳

シュプランガーが、フレーベルによって設立された幼稚園百年祭のため、1939年、ペルリン・プロイセン科学アカデミーの論文集に発表したものを、1952年のフレーベル百年忌に際して修正を加えまとめたものである。

『フレーベル入門』  H・ハイライト/小笠原道雄・藤川信夫訳

フレーベルの思想と活動を第一次資料および日記・書簡を利用して記した本格的なフレーベル入門書である。難解といわれるフレーベルの思想と活動がやさしく理解できるように配慮されている。研究者をはじめ、教育学生・保育関係者の教材に最適である。

『ペスタロッチー・フレーベル事典』  日本ペスタロッチー・フレーベル学会編

本事典は、ペスタロッチーとフレーベルの偉大な教育思想をその人物と生涯の仕事の両面から深く理解し、究明することを目的として編集された日本初の総合的な事典である。

『フレーベル教育学の研究』  岩﨑次男著

フレーベルに関する研究論文の集大成。彼の理論と実践の全貌から、その後の幼稚園の世界的・歴史的推移まで網羅。幼児教育の思想と実践の原点を知る貴重な一書である。

5.フレーベル生誕200年記念式典

フレーベル生誕200年記念式典が、1982(昭和57)年4月19日から22日までの4日間、彼の母国である東ドイツにおいて、ユネスコの協力のもとに開催されました。最初の2日間は、彼が大学生活を過ごしたイエナ大学(式典時にはシラー大学に名称が変更)で各国の教育学者が集まって国際コロキュームが催されました。フレーベルの誕生日にあたる第3日目は彼の生れ故郷であるチューリンゲンの森の中の小さな町オーバーワイスバハで、第4日目はフレーベルが世界で最初の幼稚園を創立したバード・ブランケンブルクで、それぞれ式典が行われました。また新しく完成したフレーベル博物館が、この日に開館となりました。

6.フレーベル学会

フレーベル生誕200年の記念の年である1982(昭和57)年の8月末に東北大学で日本教育学会が開催された際に、「日本ペスタロッチー・フレーベル学会」が発足しました。ペスタロッチーと、彼に直接指導を受けていたフレーベルの二人は、子供を中心に据えた教育を主張し、それに基づいて新教育の開拓を行い、児童期と幼児期の教育を確立していきました。その初等教育と幼児教育を研究対象とする学会の発足が以前から求められていたこともあり、フレーベル生誕200年を記念して、「日本ペスタロッチー・フレーベル学会」を設立することになりました。

初代の会長には荘司雅子、副会長には長尾十三二(中央大学教授)、事務局長には藤井敏彦(広島大学教授)が選出されました。本学からは、東岸克好(文学部教授)が常任理事、倉岡正雄(文学部教授)が理事、岡元藤則(文学部教授)が会計監査、石橋哲成(文学部講師)が事務局幹事に就任。第1回の大会は、1983(昭和58)年の8月27日と28日の2日間、本学を会場として開催されました。

  • ( )内の所属、職名は当時のものです。

参考文献

  • 小原國芳監修『全人教育』第311号 玉川大学出版部 1975年
  • 小原哲郎監修『全人教育』 玉川大学出版部 1981年
             第396号、第411号、第419号
  • 倉岡正雄「フレーベルの教育論―思想の性格―」
             (『全人教育』第402号 玉川大学出版部 1982年 に所収)
  • 荘司雅子「『フレーベル全集』(全五巻)の完結にあたって」
             (『全人教育』第395号 玉川大学出版部 1981年 に所収)
  • 荘司雅子「F・フレーベル生誕二〇〇年記念式典に出席して」
             (『全人教育』第408号 玉川大学出版部 1982年 に所収)
  • 白柳弘幸「故きを温ねて」(『全人』第682号 玉川大学出版部 2005年 に所収)
  • 小原國芳・荘司雅子監修『フレーベル全集』(全五巻) 玉川大学出版部 1981年
  • 小原國芳訳『世界敎育寶典全集 フレーベル 人の敎育』 玉川大学出版部 1950年
  • 『玉川学園の教育活動 玉川大学の教育活動(2008~2009)』 玉川学園 2008年