科学するTAMAGAWA 農学部環境農学科 石川晃士准教授(前編)
世界30か国以上で「農学国際協力」のプロジェクトに関わってきた
農学部環境農学科・石川晃士准教授に聞く(前編)
玉川大学農学部環境農学科は、海外留学プログラムなどを通して、グローバルに活躍できる人材育成を図っています。そのカリキュラムの中で「農学国際協力」の分野をその豊富な実務経験によって担っているのが石川晃士准教授です。石川准教授はこれまで開発コンサルタントとして、多くの国で現地の農業が抱える課題解決を図るプロジェクトに関わってきました。現在も途上国を中心としたプロジェクトや国内の地域活性化に携わりながら、農学国際協力の魅力と意義を、授業などを通して農学部の学生たちに伝えています。今回、石川准教授に「農学国際協力」の魅力と意義についてのインタビューを2回に分けてお届けします。
前編となる今回は、石川准教授が農学国際協力の分野に関わることになった経緯とこれまでの海外での実績についてお話を聞きました。
「私は子供のころから海外への興味をもっており、大学入学後には途上国を含め様々な国を旅しました。その経験の中で途上国の貧困などの社会問題を見聞し、"自分に何かできることはないだろうか?"と思ったことがこの道へ進むきっかけでした」と話す石川准教授。やがて、国連機関等で働く国際公務員という職業に憧れを抱き、その職業を目指すために、海外の大学院への進学を考え始めます。
「国際公務員になる最低条件が修士号の学位の取得、そしてその典型的な例が海外の大学院へ進学をすることでした。そのためには英語力が欠かせません。ところが当時、私は英語があまり得意ではありませんでした。しかし国際公務員になるという大きな目標=モチベーションができましたので、そこから猛勉強を始めます。英文字幕での映画鑑賞や、BBCなど海外放送の視聴、そして積極的に外国人と交流するなど、あまりお金をかけず独学で英語力を身に着けていきました」
猛勉強の末、開発学で有名な英国ブラッドフォード大学大学院に進学。その後、世界各国から集まってきた級友とともに国際開発学の修士号を取得し、帰国後は名古屋大学大学院の博士課程で学びます。
「名古屋大学大学院に進学した理由の一つが、同大学院が2000年代以降、急速に経済発展を遂げつつあったカンボジアに強い現地のコネクションのもとフィールドを有していたからでした。経済発展に起因する農村社会の様々な変化における開発の視野からの研究は、農学国際協力としても大変魅力的で、研究を通じて“現地の人たちに貢献したい”という思いがさらに強くなり、国際協力機構(JICA)のプロジェクトに参加します。カンボジアにおいて主要な農産物であるコメのバリューチェーンに関する研究を進め、後年、研究論文の一部が政府の政策にも反映されました。その経験が私にとって最初の農学国際協力の成果であり、自分の原点として忘れられない経験となっています」
その経験を含め、これまで石川准教授が農学国際協力の専門家として関わった国はなんと30カ国以上に及びます。その中には日本の自衛隊が国連平和維持活動(PKO)として派遣された独立直後の南スーダンもありました。
「まだ政情不安の中、JICAによる農業開発マスタープランの策定支援を行うプロジェクトチームに参加しました。治安に関し危険も感じる日常もありましたが、現地の人々の役に立ちたいという思いが勝り、2年ほどプロジェクトに関わって、国の農業生産や食料安全保障の状況の改善に尽力しました」
この包括的農業開発マスタープランは、のちに南スーダンの暫定国民評議会(いわゆる国会)においても承認されることにもなりました。
JICA海外展開支援事業 ナマズ養殖実証プロジェクト 組合ヒアリング
そして、大学教員として今、現在も関わっているインドでの活動は、大学院時代に同じ指導教授の下で研究したネパール人の級友が縁で始まったそうです。
「個人研究で訪れたインドで久しぶりに再会した彼は北インドの州政府でコンサルタントとして働いており、私にもインドで活動しないかと強く勧めてくれました」
そこでインドでの事業に興味を持っていた優れた水のろ過技術を持つ愛知県の中小企業を誘ってJICAの民間企業海外展開支援事業として、企業側、州政府側と協力しながらナマズの養殖事業の実証研究に取り組みました。この活動を通して石川准教授は途上国の課題を日本の技術やノウハウによって解決する可能性に大きな手応えを感じました。
その後、インドでは日本大使館や農林水産省、JICA、日本貿易振興機構(JETRO)などと協力しながら、日本企業の農業技術と現地のニーズを結びつける様々な支援プロジェクトをコーディネートしています。そうしたプロジェクトは海外技術協力であるとともに、技術やノウハウを提供した日本企業の地域活性化にもつながっているそうです。
「海外での活動は文化や生活習慣の違いもあって、日本人同士のように話が通じなかったり、仕事の段取りが思うように運ばなかったりなど、苦労はつきものです。でも、それが当たり前と思えば気にするほどのこともありません」とほほ笑む石川准教授。「困っている多くの人を助けたい」というシンプルでありながら強い思いは、ますますボーダレスに広がっていきます。
(※後編に続く)