玉川大学、コロナ禍での音楽教育への挑戦 (前編)

2020.12.11

なぜ玉川大学では1年生全員が『第九』を合唱するのか?

玉川大学では、8学部17学科の1年生全員が必修科目として「音楽Ⅰ・Ⅱ(玉川教育・FYE科目群)」を受講します。授業では長年にわたり玉川学園で歌い継がれてきた合唱曲を集めた「愛吟集」や讃美歌を素材に音楽における表現方法から音楽の歴史、様式などを幅広く学びます。そして授業のハイライトが、ベートーヴェン「交響曲第9番ニ短調 作品125《合唱付》」終楽章〈歓喜に寄せて〉(以下、「第九」)のドイツ語での合唱。1年生全員が各パートに分かれて練習を重ね、その成果を年末の「音楽祭」で披露します。

ベートーヴェン生誕250年の記念すべき年である2020年は新型コロナウイルス感染拡大のため、残念ながら音楽祭は中止となりました。しかし「音楽Ⅰ・Ⅱ」の授業は担当教員の熱意と奮闘によりベートーヴェンと「第九」に関する多面的な学びとパート別合唱練習がリモートで実現。玉川の音楽教育と「第九」の伝統はしっかりと受け継がれることになりました。

1936(昭和11)年5⽉28⽇ オリンピック蹴球選手送別音楽会

では、なぜ玉川大学で1年生によって「第九」が歌われることになったのでしょうか?玉川学園で「第九」の合唱の関係を遡ると、1936(昭和11)年5月に東京・日比谷公会堂で開催された「オリンピック蹴球(サッカー)選手送別音楽会」にたどり着きます。ベルリン・オリンピックに出場する日本代表選手のためのこの音楽会に玉川学園の生徒は成城学園とともに大日本合唱連盟の一員としてステージに立ちました。演奏は新交響楽団、現在のNHK交響楽団です。

翌1937(昭和12)年、その新交響楽団の指揮者として、ドイツからヨーゼフ・ローゼンシュトックが来日。その指導のもと、東京高等音楽学院(現・国立音楽大学)とともに玉川学園の学生が「第九」を歌っています。以後も玉川学園は新交響楽団の依頼で「第九」のステージに立ちました。1938(昭和13)年には、年末の12月26・27両日に築地・歌舞伎座で「第九」演奏会が開催されました。1年を締めくくるこの演奏会は大成功をおさめ、日本で「第九」が年末に演奏されるようなったきっかけとも言われています。

第二次大戦後、わが国で初めて演奏された「第九」にも玉川学園が参加しました。1945(昭和20)年12月、空襲の焼け跡の中に立つ日比谷公会堂でローゼンシュトックの指揮のもと、新交響楽団から改称した日本交響楽団の演奏で玉川学園の合唱団は復興への思いを込めた「第九」の力強い合唱をステージから響かせたのです。以後、1951(昭和26)年まで、玉川学園は新交響楽団とのステージに立ちました。1953(昭和28)年は、前年から玉川学園芸能教育発表会として開催されていた「玉川(学園)の集い」のフィナーレに岡本敏明の指揮、国立音楽大学管弦楽団の演奏による「第九」終楽章が演奏され、その後も玉川学園は様々な演奏会で「第九」を合唱しました。

1960(昭和35)年7月、玉川学園主催の初めての「第九」演奏会(近衛秀麿・指揮、ABC交響楽団)が開催され、1962(昭和37)年の『玉川学園音楽祭』では、第4楽章のみでしたがオーケストラ、ソリスト、指揮者もすべて玉川学園の生徒、学生、卒業生、教員という「オール玉川」での「第九」演奏を実現。当時高等部1年だった現学園長・学長の小原芳明も合唱団のメンバーとしてステージに立ちました。

1967(昭和42)年12月に東京文化会館で開催した玉川学園音楽祭では高等部3年生と大学1年生による第九の合唱が披露されました。翌1968(昭和43)年からは、「音楽」が大学1年生の必修科目となり、以後、現在に至るまで毎年12月の音楽祭に向けてすべての大学1年生がドイツ語で歌う「第九」に取り組むようになりました。

1960(昭和35)年7⽉3⽇ 玉川学園音楽祭
2019(令和元)年11月28日
「創立90周年記念式典 玉川の集い 夢を拓く」
大学1年生・在学生有志・卒業生有志による「第九」の合唱

創立者小原國芳は「第九」について次のように述べています。

第九に想う
大学生は入学するとイキナリ、一人のこらず全国の高等学校から集った諸君を、どんな音楽の不得手でも、一ヶ月少々の練習でステージに立たせるという無茶に近い大胆な計画です。やってみると、とにかく皆が歌えるのです。しかも、譜も見ないで丸暗記なのです。一遍に歌ずきになります。
音楽は、人間教養の上から実に尊いものを与えてくれますことを、ただただ感謝しております。全人教育徹底のための大きな道の一つです。

1960年(昭和35)年7月3日開催  玉川学園音楽祭プログラムより

大学1年生の「第九」は、歌詞を間違わず、正確な音程で歌うことを目的にしているわけではありません。純粋に音を楽しみ、仲間と声を合わせて合唱することに全力を傾けることで、芸術と向き合う意義を追求し、連帯感と感動を体験することを重視します。さらにその体験を通して、一人ひとりが大学生活、さらにその先の未来に向かう生きる力を得ることが玉川大学の音楽教育の大きな目標です。最初は「なぜ第九を?なぜドイツ語で?」と戸惑っていた1年生も、12月の音楽祭本番では大きな感動に包まれ、感動のあまり涙を見せる学生も少なくありません。

そして2020(令和2)年度、コロナ禍の中で1年生たちはどのように「第九」と向き合っているのでしょうか。後編ではリモートでの「音楽Ⅰ・Ⅱ」の授業を担当している教育学部乳幼児発達学科朝日公哉准教授に話をうかがいます。

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