玉川大学、コロナ禍での音楽教育への挑戦 (後編)

2020.12.15

2020年度「音楽Ⅰ・Ⅱ」はどのように行われたのか?

2020年度、新型コロナウイルス感染拡大により玉川大学の全1年生がベートーヴェンの「交響曲第9番ニ短調 作品125《合唱付》」終楽章〈歓喜に寄せて〉(以下、「第九」)をドイツ語で合唱する「音楽祭」の中止が決定しました。音楽担当の教員は、1968(昭和43)年から続いてきた大学1年生全員による「第九」の合唱ができないという不測の事態への対処を求められました。

「音楽Ⅰ・Ⅱ」の授業を担当し、リモート授業のコンテンツづくりを主導したのは教育学部乳幼児発達学科の朝日公哉准教授でした。しかし当初は「これまで対面で指導してきた「第九」の合唱指導をリモートで行うなんてとても無理だろう」と思っていたそうです。

「玉川の音楽教育は学習者主体がモットー。一方的に知識を授与する授業ならばオンラインでも可能です。しかし学習者主体の学びを実践してきた『音楽Ⅰ・Ⅱ』が果たしてオンラインで可能なのか?そのためのシステムを用意できるのか?前例のないこの状況にどう対応すべきなのか、さまざまな問題が浮上しました。特に、同時に合唱の響きを体験することが最も困難なオンラインの授業で、どのようにしたら『第九』演奏の喜びを学生に感じ取ってもらえるかが最大の課題でした。担当教員とのリモート会議や各部署とのやりとりを繰り返し、この課題を乗り越えるために奔走しました。その度に教職員からの手厚い協力を得ることができ、改めて玉川における“第九の取り組み”に対する“理解と思い”を感じました」。
もともと「音楽Ⅰ・Ⅱ」は、「全人音楽」という科目名で開講されており、「音楽表現の優劣を評価するのではなく、芸術と向き合う意義を追求する」という創立者小原國芳の考え方に基づく授業でした。「音楽教育のために全学が一致団結できる。それも玉川大学の素晴らしいところでしょう」という朝日准教授を中心に、夏休み期間を通じて玉川の音楽教育の原点に立ち返ったリモート授業の準備が急ピッチで進められました。


まず「音楽Ⅰ」では玉川学園の全人教育の6つの価値「真・善・美・聖・健・富」を、ベートーヴェンと彼が創造した「第九」に関する理解を多面的に深めていくための6つの視座に据えてオンデマンド授業のカリキュラムを作り上げました。
たとえば「真」の回では、作曲家ベートーヴェンの真の姿と「第九」という楽曲の本質を最新の研究成果をもとに学び、「善」ではベートーヴェンの人間像について作品との関連を踏まえながら考察を深めました。また、「美」ではNHKの音楽番組などにも出演されている芸術学部野本由紀夫教授との対談形式によって、ベートーヴェンが生きた時代とともに「第九」の価値や評価などがわかりやすく論じられました。
「音楽Ⅱ」は合唱の実技指導の授業です。Zoomを使ったリモート授業で例年通りソプラノ、アルト、テノール、バスの各パートに分かれた指導が行われました。モニター越しの合唱指導は対面に比べると不自由さがあると思われましたが、1年生たちは教員の熱意を受け止め、リモートのハンディを乗り越えて意欲的に取り組んでくれたようです。

以下は、授業後に学生から寄せられた“振り返り”の文面の一部抜粋です。

  • 「授業を通して少しずつ音楽が楽しくなってきました。高校の頃は音楽の奥深さなどわかりませんでした。しかし『音楽Ⅱ』を通して自分なりにそれがわかってきたように思います」
  • 「『音楽Ⅱ』を通して玉川大学の全人教育の素晴らしさを知り、言葉で表せない感動を覚えました。玉川の音楽の授業を通して、自分だけにしかない個性ともいえる感性に磨きをかけていきたいです」
  • 「授業を重ねていくたびに音楽の素晴らしさを感じます。向きあい方次第で音楽の力はどんどん強くなっていくと思いました。第九の合唱はすごく難しいけれど、しっかり頑張っていきたいです」
  • 「今回の授業で小原先生の『馬鹿になれ』という言葉を思い出しました。第九や校歌を歌う中で、小中高のことを思い出しました。特に中学の時は歌なんて歌いたくない、ヘタクソだから嫌だ、好みの歌ではないと粋がって真剣に取り組まないことが多々ありました。大学で歌うことがとても楽しく感じたので、ヘタクソでも本気で取り組み、馬鹿になろうと思いました」

「このような感想を見ると、学生たちはモニターの向こう側にある授業の意味や意義をしっかりと受け取ってくれたようで、本当にうれしい限りです」と朝日准教授。「私はできるだけ『今年度の1年生は気の毒』『音楽祭が出来なくて残念』と言わせたくありません。コロナ禍の年だからこそできた経験というものがあると思うのです。もちろん私だって『音楽祭』ができない悔しさは人後に落ちません。しかし、リモートで真剣に『第九』に取り組んだ経験は、10年後、20年後にはおそらく一人ひとりの人生を豊かにするかけがえのない思い出となることでしょう。私たち教員は画面の向こうにいる1年生約400人をしっかり見据えて、そのために自分が今できることにベストを尽くしていきたいと思っています」

なお、音楽祭の中止により今年度合唱できなかった1年生に対しては、次年度以降の「音楽祭」での合唱参加が検討されています。

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