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2022年度より高等学校公民科の必修科目「公共」がスタート。新科目の中身と求められる教員について教育学部教育学科 樋口雅夫教授に聞く(後編)

2021.10.04

授業の主役は生徒
教員はファシリテーター

==新科目「公共」は「A 公共の扉」「B 自立した主体としてよりよい社会の形成に参画する私たち」「C 持続可能な社会づくりの主体となる私たち」の3パートに分かれています。それぞれの中身について教えてください。

樋口 いちばんボリュームがある「B 自立した主体としてよりよい社会の形成に参画する私たち」のパートでは多くの具体的な社会問題について考えていくのですが、その導入として「A 公共の扉」が位置づけられています。「公共の扉」とは多くの人が共に生きる公共空間の中で、各人がどのように考え、発言し、行動してしまうのか、その根底にある考え方を理解しようとするもので、さきほど(前編参照)生命倫理に関連してお話しした功利主義的な考え方と義務論的な考え方がその手がかりとなります。
「B 自立した主体としてよりよい社会の形成に参画する私たち」では、法の分野・政治の分野・経済の分野で合計13テーマが設定されており、具体的な社会事象や身近な生活と結びつけながら問いを立て、ディスカッションやディベートを通して学んでいきます。

==授業の内容もやり方も多様です。あくまで生徒たちが自分自身の問題として調べたり、考えたりすることが授業では大切なのですね

樋口 はい。こうした「公共」の授業において教員は議論の進行役、ファシリテーターの役割を果たします。場合によっては学外から専門家や実務家を講師に招いて話を聞いたり、生徒が学校外でインタビューしたりすることもあるかもしれません。学ぶ内容は学習指導要領に規定されていますが、それを授業でどのように展開していくかは、各学校・教員の裁量に委ねられています。取り上げる課題によっては他の教科や総合的な探究の時間、特別活動(学級活動など)と関連する部分もありますから、学校、学年としてのカリキュラム・マネジメントの中で「公共」の授業を考え、工夫していくのがいいでしょう。

「C 持続可能な社会づくりの主体となる私たち」はそれまで「公共」で積み上げてきた成果をベースに、自分たちが特に興味がある社会課題を取り上げて、よりよい社会を導くための解決策を探究する時間です。グループで一つの問題を考察し、議論を重ねながら構想をまとめていき、教員や他の生徒に対してしっかりした論拠を示しながら自分たちの考えを説明します。いわば「公共」の1年間の総仕上げです。
なお、「公共」の学習を通して、政治・経済分野、法や社会倫理などに関心を深めた生徒には、選択科目として「倫理」「政治・経済」が用意されています。

==樋口先生がファシリテーターとおっしゃったとおり、「公共」は教える社会科教員にも新しい役割が求められることになりますね。

樋口 「公共」の授業を担当する醍醐味は、なにより次世代の若者たちの社会に対する率直な考え方、意見を、もしかしたら親よりも先に聞くことができるということでしょう。地球環境問題や宗教の問題など、おそらく次世代に持ち越される多くの社会課題を解決することになる若者たちのスタートラインを用意する……そんな素晴らしい仕事が「公共」担当の教員に委ねられています。私もかつては社会科教員でしたから、そのやりがいと責任の大きさに胸が高鳴る思いです。すでに自治体や教育委員会、各高等学校でも「公共」に関する研修などに取り組んでおり、2022年度のスタートを待つばかりです。

教える側にも学ぶ側にも
「共感力」が大切となる

==玉川大学教育学部でも「公共」担当教員に向けた教員養成教育が始まっていますか?

樋口 もちろんです。実は玉川大学には「公共」担当教員養成に関してアドバンテージがあると私は思っています。戦後、米国の教育使節団が玉川学園の「自由研究」を新しい日本の社会科教育の参考にしたとお話しましたが(前編参照)、まさにこの「自由研究」の手法こそ、現代のアクティブ・ラーニングなのです。つまり玉川学園、そして玉川大学教育学部では、すでに長年にわたって「公共」で必要とされているアクティブ・ラーニングなどの教育手法や指導法を実践してきたわけです。実際、教育学科の「社会科・公民科指導法」などの授業では、グループワークの中で自分の意見を作っていくトレーニングが行われています。学生たちも上級生からこうした玉川教育の伝統をしっかりと受け継いでいるので、教室ではレベルが高いディスカッションが展開され、われわれ教員も教え甲斐があります。

教職課程の授業(2018年)

また、教育学部は小学校教員志望者が多く、サブ免許として中学校や高等学校の教員免許を取得したり、その逆のパターンがあったりと、小・中・高それぞれの教育のつながりを考えながら教員を目指せる環境も素晴らしいと思います。義務教育である小学校と中学校の連携する機会はかなり増えてきましたが、「公共」というアクティブ・ラーニング主体の科目ができることで、高等学校も小学校と中学校と話し合いの機会を持ち、連携を図ることになればいいと思います。玉川大学の卒業生たちには率先してそうした役割を担って欲しいですね。

==では最後に、「公共」という科目を通して、次世代を担う若者たちにどのようなことを望みますか?

樋口 多くの人が共に生きる私たちの社会の中で、様々な立場の人に目を向けることができる人になってほしいです。そのためには貧困や働く人の問題、人種・民族・宗教などの問題、エネルギーや地球環境の問題……こうした社会課題を他人ごとではなく〝自分ごと〟として理解することができる「共感力」を身につける必要があります。人がどのように考え、発言し、行動してしまうのか、その根底にある考え方を理解しようとする「公共」はまさにこの「共感力」を養う学びを体験します。「公共」を教える側にも、学ぶ側にもこの「共感力」を身につけていただきたいと考えています。

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