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玉川大学・玉川学園学友会寄附講座:玉川学園出身の「声」のスペシャリスト・渡辺克己氏を講師に教育学部対象「未来はコトバでできている―生きることは表現だ―」を開催

2019.07.30

玉川大学・玉川学園学友会が在学生支援の一環として、各界識者を招くなどして開催する寄附講座。6月21日(金)には、教育学部教育学科・乳幼児発達学科の学生を対象に、ナレーター・俳優、コミュニケーショントレーナーとして幅広く活躍する渡辺克己氏(k-works)を講師とした「未来はコトバでできている―生きることは表現だ―」が開催されました。

渡辺克己氏は、玉川学園小学部・中学部出身です。母校の後輩たちを前に自己紹介から始めました。渡辺氏は、テレビCM、番組、ディズニー映画予告などのナレーション、舞台俳優、ラジオパーソナリティとして活躍する一方、企業経営者から生徒・学生までを対象とする発声・プレゼンテーション・アナウンス指導なども行っている「声」のプロフェッショナル。実は私たちは知らず知らずのうちに、渡辺氏の声に親しんでいます。
講義の冒頭、ご自身のナレーションによる企業CMと映画予告映像を流すと、そのナレーションの声に学生たちの間からちょっとしたどよめきが起こりました。聞き覚えのある声の主が目の前にいることへの驚きでしょう。
そんな学生たちの尊敬の眼差しを浴びながら渡辺氏は「私は学生時代からこの仕事がやりたかったわけではありません」と話し始めました。

渡辺氏は企業や行政機関での仕事を経て、役者になることを目指します。30歳という遅いスタートでしたが、養成所などに通うことはなく、「玉川学園で学んでいたことが演じるためのベースになった」と語ります。
ところが、当時の渡辺氏は、人前で話すのが大の苦手。オーディションでは、いつも緊張し、冷静に臨むことが出来なかったそうです。その渡辺氏が、なぜ今、「声」で伝える表現のプロとして仕事をしているのか?そこから講義の本題がスタートしました。

自己紹介で流したCMや番組ナレーション。どれも渡辺氏の声ですが、明らかに声の雰囲気、印象が異なっています。しかし、渡辺氏いわく「わざと声を変えているわけではない。“誰に”、“何を”伝えるかで、声は変わってしまうのです」と意外な発言。
「同じ自分あっても、いつ、誰と、どこにいるかで、違う自分が現れる。それは、相手とどのように関わっているか、という自分の表現です」そして「積極的に何かを表現することだけが『表現』ではなく、例えば、数あるブランドの中から、自分がその服を選んだということも、自分の表現。世界と関わる中で、感じること、行動すること、すなわち生きることのすべてが表現と言えるのです」と。

「何か課題に向き合った時に、『どうせ…』など、否定的なことばが頭の中に浮かんでいませんか?未来を変えるのは、今この瞬間でしかありません。どんな言葉が自分の中に生まれるかによって、未来は変わってくる」と学生たちに呼びかけると、次に壇上から降りて、学生たちの席の方に向かい、問いかけました。
「みなさんは、赤ん坊はなぜ泣くと思いますか?」
突然の問いに学生たちは、「お腹が空いたから」「オムツを替えて欲しいから」とやや自信なさそうに答えます。答えに辿り着かない学生たちに向かって渡辺氏は「では、赤ん坊が泣かなかったらどうなるでしょう?」と問いを変え、親など誰かの力を借りないと生きていけない赤ん坊は、自分の命を守る、生きるために戦略的に泣いていると話します。それも発声トレーニングをした訳ではなく、生まれながらの能力として。「自分の声が好きではないという人がたくさんいますが、私は『良い声』とは、自分や自分に関わる人の未来を創っていける声だと思う」と。

渡辺氏には、筋ジストロフィーを患い、若くして亡くなった弟さんがおられたそうです。「弟は病気のために人工呼吸器を着けた後も、スムーズな発声ではなくとも、死ぬ間際まで、自分の思いや考えを伝えていた。その姿を通して、うまく喋ることが大事なのではないというコミュニケーションの本質に気づきました」と語られます。

そして講義はクライマックスとなる「自分の本当の声」を取り戻すための実践編です。
渡辺氏は題材として、谷川俊太郎氏の『朝のリレー』という詩を取り上げます。一人の男子学生がステージに呼ばれ朗読しました。突然のことに緊張する学生を励ましながら、割り箸をくわえて、もう一度。さらに、ささやき声で三度目の朗読をしました。この体験を通じて、発声のしくみを意識し、活性化させるためのボイストレーニングの手法を学びました。
もう一人、今度は女子学生がステージに上がり、同じく「朝のリレー」を朗読しました。やはり緊張からか早口で朗読する女子学生に「自分本来の体内リズムと異なるリズムで朗読している」と指摘。そして今度は、詩の中に出てくるカムチャッカ、メキシコ、ニューヨーク、ローマの各地域の登場人物4人を他の学生に担ってもらい、女子学生はまるでツアーガイドのように4人の学生の席のところへ移動しながら朗読しました。「聞いている人に、何を、どう伝えたいかを意識することが大切」とアドバイスを受けての朗読は、読みのリズムがゆったりと聞きやすいものに変わりました。

二人の学生の実践は、「紙に書かれている文字を手がかりにして、字面の向こう側に広がる世界を想像する」という試みでした。最後に、渡辺氏は「息づかいは、その人のイキ(生き)ざまでもある。みなさんは、ふだんの自分がどのように世界と関わり、どのような息をし、どのような言葉を発しているのか、折りに触れて考えて欲しい」と学生たちにアドバイスしました。

渡辺氏は、これまで玉川学園のモットーである「人生の最も苦しい いやな 辛い 損な場面を 真っ先に微笑みを以て担当せよ」を人生訓として生きて来られたことも話してくれました。 また、難病によって29歳で早世した弟さんとの関わりの中から、「人は出来ないことに注目してしまうことが多い。でも、出来ないことを嘆くのではなく、一つでも出来ることを喜ぼう」と学生たちに語りかけた言葉が印象的でした。
将来、教育・保育等の世界で、言葉を通して多くの子供たちと関わり合う学生たちにとって、多くの示唆に満ちた1時間半の講義となりました。

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