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東日本大震災を忘れない――教育学部で震災を経験した方による講演会を開催

2021.11.18

10月14日、教育学部の臨床心理学ゼミで東日本大震災に関する特別講演会を開催しました。新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言解除に伴い、対面で実現することができた講演会です。福島県双葉郡川内村村長の遠藤雄幸氏と、県外避難をされている武田恒男さんと橋本洋子さんにご登壇いただきました。

臨床心理学ゼミを主宰する原田眞理教授は、阪神淡路大震災以来震災支援を続けており、2011年に起きた東日本大震災でも在京避難者、そして福島県内の避難者の方々の「こころのケア」を中心に支援を行っています。避難者の心理相談などを担当するとともに、ゼミの活動として川内村を訪れ、小学校での学習支援などにも取り組んでいます。今回の特別講演会も、そうした活動の中で出会った方々にご協力をいただく、貴重な機会に恵まれました。講演会は原田教授のゼミ生、中村香教授のゼミ生、若月芳浩教授のゼミ生の他、大学院生、教育学部の教員が聴講しました。

前半は県外避難者のお二人に「東日本大震災を経験した方からのメッセージ―経験者と支援者2つの立場から―」というテーマでお話いただきました。最初に登壇したのは、町田市在住の武田恒男さんです。岩手県陸前高田市出身で、震災で津波に遭い、町田市へと避難して来られました。当時のこと振り返り、言葉をかみしめながら「流れている家の中から人の声が聞こえてきたけれど、どうすることもできませんでした」など、当事者にしか分からない状況を学生たちに語りかけます。また写真が趣味だったことから、震災の記録として地元の様子を続けており、それを原田ゼミが聞き取りをして記録写真としてまとめた震災後の風景や津波の動画などを、説明を交えて見せてくださいました。

次に登壇したのは、橋本洋子さんです。震災当時は福島県双葉郡浪江町に住んでいた橋本さん。町は津波の被害に遭った上、福島第一原子力発電所事故により避難区域に指定されてしまいました。取るものも取り敢えず故郷を離れなければなりませんでした。震災の2週間後には横浜への移動を余儀なくされます。ようやく生活の場も落ち着き、現在は、武田さんとともに水害で汚れてしまった写真の洗浄などに携わっています。「震災で大切になるのは、日頃からの『備え』です」と説得力のある橋本さんのお話を、学生たちは真剣に聞き入っていました。

お二人の講演を聞いた学生たちからは「震災当時は小学生で、現実とは思えませんでした。けれどもお話を伺って、当事者意識を持って防災を考え、行動していくことが大切だと感じました(原田ゼミ3年 女子学生)」、「物理的な備えだけでなく、いつ何が起きるのか分からないという『気持ちの備え』も大切だと思いました(原田ゼミ3年 女子学生)」、「今日お話を伺って、震災のことを子供たちにも伝えていくことが大事だと思っています(中村ゼミ3年 男子学生)」、「小学校でボランティアの経験があります。震災の経験のない彼らにきちんと伝えていけるよう、もっと深く知る必要があると感じました(中村ゼミ3年 女子学生)」といった感想が寄せられました。

後半は、川内村の遠藤雄幸村長の登壇です。福島第一原子力発電所事故では12の市町村が避難を余儀なくされましたが、遠藤村長はその12市町村の中で唯一、震災前から現在まで村長を続けられており、震災後も復興の陣頭指揮を執ってこられました。原田ゼミは2013年に始めて川内村を訪れ、2014年からはゼミ合宿を行い、交流を続けています。緊急事態宣言が解除されたこともあり、今回、遠藤村長の本学における対面での講演が実現しました。テーマは「今を乗り越え、その先へ Go Beyond!」です。

「震災は多くの分断を生み出しました」と遠藤村長。たとえば家族の中でも、高齢者は早い時期に帰村したいと考える一方で、子供や孫の世代は安全を考えて帰村を躊躇する家族も多かったそうです。また村の一部は原発から20キロ圏内となり、圏内外では避難解除の時期や賠償の内容なども変わってきます。それが住民間の分断や軋轢を生む原因にもなりました。そうした中、できるだけ情報を開示し、住民の帰村を促すと同時に企業誘致などにも努めてこられました。村といっても川内村は八王子市よりも広く、課題も山積。それらを一つひとつ解決し、新たな村の魅力を創出するために一般社団法人「かわうちラボ」も設立するなど、未来に向けた種も蒔いています。「絶対の安全などはなく、『もし原発事故が起こったら』と想像を巡らすことが大事だと、この震災を通じて感じました。川内村は多くのものを失いましたが、一方で豊かな自然や人の優しさなど、改めて実感できたことも少なくありません。与えられた環境の中で、守るべきものは守りつつ、新たなことにも挑戦していきたいと思っています」と温かい笑顔とともに強い気持ちを込める遠藤村長。震災に遭い、分断や対立が生まれた福島の経験や歩みは、「日本にとっての試金石になるはず」という言葉がとても印象的でした。

遠藤村長の話を受けて「これまでゼミでも川内村について調べましたが、今日のお話で村の取り組みを知ることができ、とても良かったです。コロナウイルスが収束したらぜひ訪れたいと思っています(原田ゼミ3年 男子学生)」、「私自身、震災を経験したわけではないのですが、だからこそ当事者意識をもつことが大切なのだと、今回のお話や写真を拝見して強く感じました(中村ゼミ3年 男子学生)」といった感想が聞かれました。また「東京に住んでいる人に、どのように震災のことを伝えていけばいいでしょうか」(若月ゼミ3年 女子学生)という質問に対して、遠藤村長は「知るということは非常に重要ですね。知ることで自分が変わる。自分が変われば周りが変わる。周りが変われば地域が、そして日本や世界が変わります。だから川内村を知ってもらうため、あらゆるツールを使って伝えたいと思っています」と答えてくださいました。

講演会終了後は、学生食堂で遠藤村長、武田さん、橋本さんに、原田ゼミが企画(協力:Cafeteria Sakufu・Cafeteria Rindo・学友会)した「学食コラボ」のオリジナルメニューでもてなしました。この「学食コラボ」は特別講演に合わせて企画したもので、川内村の特産品を使用した「養殖のイワナの蒲焼き丼」や「かぼちゃのシチュー」など日替わりメニューを限定60食で4日間にわたり提供。この日は川内村で商標登録を行った「ひたむき椎茸」を使用した「ひたむき椎茸ジュニアの肉詰め」を味わっていただきました。

2021年は、東日本大震災から10年という大きな節目の年でした。これまで行われてきた追悼行事や支援事業の、終了や縮小という節目となっている事例も少なくありません。2020年からの新型コロナウイルス感染症の蔓延も、そうした世の中の風潮に拍車をかけています。しかし、「こころ」に時間は関係ありません。震災から得た教訓を風化させず、次の世代へ伝えていくには何をすべきなのか。教員志望者が多い教育学部の学生たちにとって今回の講演会は、震災について理解を深め、こころのケア、防災教育を考える大変有意義な時間となりました。

原田ゼミとの記念写真(前列中央 原田教授、遠藤村長、武田さん、橋本さん)

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