玉川大学・玉川学園Webサイト
IEサポート終了のお知らせ

玉川大学・玉川学園webサイトTOPページリニューアルに伴い、Microsoft 社の Internet Explorer(以下、IE)のサポートを終了いたしました。本学園が運営するサイトをIEで閲覧した場合正しく表示されない恐れがございます。
皆様にはご不便をおかけしますが、別のブラウザを利用しての閲覧をお願いいたします。

イデア書院設立100周年&児童百科事典刊行90周年記念講演会開催「書物の海へ―イデアとメディア―」

2023.01.16

2022年は、玉川大学出版部の前身のイデア書院設立100周年と、玉川学園出版部による日本で初めての子供向け百科事典「児童百科大辞典(全30巻)」刊行90周年という、節目の年です。12月10日、教育学部全人教育研究センター主催による記念講演会を開催し、イデア書院設立100周年の歴史をふり返る映像の上映、小説家・博物学研究家であり元玉川大学客員教授である荒俣宏先生からのメッセージ、梅花女子大学・森貴志准教授、東京大学・山名淳教授のシンポジストによる講演を行い、学校出版事業の教育史的意義と「読む」ことの根源性について考えました。

2022年12月10日、玉川大学 University Concert Hall 2016 「MARBLE」にて開催された、イデア書院100周年&児童百科事典刊行90周年記念講演会「書物の海へ ―イデアとメディア―」には、本学の小原芳明学長をはじめとする関係者、本学教育学部学生が参加しました。

学問と学校と出版をつなげ、展開した、イデア書院

本学教育学部 濵田英毅准教授の司会で開会し、まず玉川大学出版部の前身であるイデア書院設立から現在に至る100周年の歴史をふり返る映像を上映しました。その中で、玉川大学出版部の石谷清氏が挨拶。
「大学の基本は、研究と教育であり、最近は大学と一般社会との交流の役割を果たすうえで、大学の出版事業は重要な役割だと考えます。研究センターの発表の場としての研究書、効果的な教育を助ける教科書、大学における研究の成果の社会への普及を図る啓蒙書・教養書などの刊行が、玉川大学出版部に課せられた責務です。私たちは先達の残してきたものを想いながら、今後に向けて新たな取り組みを含め、活動を続けてまいります。引き続き、ご支援のほどをお願い申し上げます」

さらに、小説家・博物学研究家であり元玉川大学客員教授である荒俣宏先生から、「イデア書院設立から現在に至る年表を見て、一番驚いたのは、大学の出版部や出版社は国内にいくつもあるが、玉川学園創立者・小原國芳氏がイデア書院設立当初から、『教育の源は出版である』と掲げ、『全人教育』につながることを考えていた、という事実でした。(中略)当時の出版物は部数が少なく、非常に高価だったので、一般家庭には本はなかった時代に、良質な本を安く売り出して、全国のさまざまな学校に納めていました。学問と学校と出版がつながったわけで、それを展開したのが小原國芳氏であり、凄いことです。これからさらに新たな本を出版されるのを楽しみにしています。未来を期待しています」というメッセージをいただきました。

また、小原芳明学長の挨拶では、「イデアとは、ギリシャ語で『理想』を意味します。オヤジさんは、教育とは『理想の実現』と捉えていたから、出版社を『イデア書院』と名付け、現在の玉川大学出版部に至るまで、教育の実践と共に、出版事業を通じて、理想の教育の実現と普及に邁進してきました。子供たちの自学、探究学習に資するため、先生方の教育研究、自己研修のため、また社会人の教養のためとなる出版に努めてきました。特記すべきは、90年前の1932年から始まった、『児童百科大辞典』の刊行です。(中略)子供たちの興味関心が深く広がればという想いで出版し、私も営業に協力していました。上皇后陛下から学校時代にご使用になったことを伺い、大変名誉なことです。今、メディアの書物や出版事業は変革期を迎えています。本日の講演が、書物や出版事業の教育的使命や諸課題を考える機会になれば幸いです」と述べました。

1932年(昭和7年)日本で初めて子供向け『児童百科大辞典』刊行
1954年(昭和29年)編集を指導する小原國芳

イデア書院から玉川大学出版部へ、メッセージ性をもった出版社であること

次にシンポジストによる講演で、最初に、梅花女子大学文化表現学部情報メディア学科・森貴志准教授が登壇しました。森准教授は玉川大学出版部で約20年にわたり、編集者として活躍。在職中は大学出版部協会の理事も務めていました。

「イデア書院に関わる人びとは、小原國芳の妻の信とその実家の高井家で、信の父・太と、信の弟・能が活躍しました。1923年の雑誌『イデア』創刊号の奥付には、発行者・高井太、編集者・小原信とあり、イデア書院の誕生について、『小原國芳氏の一生の事業を援助する為に生れました。弊店の一切の純益は、同氏の學校経営に捧げるのでございます』と記されています。また、『真に精神的に文化的に有意義な本でなければ出しませぬ。原稿の批判、著者の選定を慎重にして貰ひます。御信用下さいませ』とあり、小原國芳の夢の実現を支える人びとの存在と、熱意が分かります」。

『イデア』1号(1923年1月)玉川大学教育学術情報図書館蔵

また大学出版の機能と役割について、「小原國芳は『玉川児童百科大辞典 活用の手引』で、『私は根っからの出版屋ではないのです。教育一筋に60余年、『全人教育』を提唱して戦いつづけている教育者です。玉川学園を創設して研鑽と実践を重ねています。講演に、テレビに、寄稿に。出版もその一環です。(後略)』と述べていますが、出版活動に取り組み、教育と連環させていることが分かります。

イデア書院から100年続いていますが、継続性が重要です。私が(玉川大学出版部で)現役で企画を立てていた頃、『玉川』という特徴、『大学』という質の担保、『出版』という公共性を意識していました。玉川大学出版部は教育に積極的に関わるというメッセージ性を持った出版社であり、メディアです。歴代の編集者が残したものがあるから、今のブランドがあります。私は20年の間、時間を共有し、出版物をつくってきました。『何を残すことができただろうか』『メディアとして媒介できただろうか』と思います。今後も大事に進めていただければと思います」と述べました。

玉川大学出版部 カタログ

玉川学園創立者・小原國芳のメディア戦略を考える

次に登壇したのは、東京大学大学院情報学環・学際情報学府の山名淳教授です。山名教授は、現代の日本の教育思想、教育哲学を研究され、とくにドイツ田園教育舎の研究は、国内外で高く評価されています。同時に小原國芳の全人教育にも造詣が深く、小原國芳の田園都市、全人教育を巡る行動と物語をはじめ、多数の優れた論文を発表されています。今回は、「メディアとしての玉川学園 ―印刷物と空間の間で教育が展開する―」と題する講演です。

山名教授は、玉川学園の歴史の一部を「印刷」と「空間」のメディアの観点から眺めるとしました。小原國芳は雑誌『イデア』の刊行をはじめ、非常に活発な出版活動を実行。メディアの発信に積極的であった新教育の実践者は、海外も含め見当たらないとし、「起点としてイデア書院があり、雑誌『イデア』が重要な役割を果たしています」と述べ、『イデア』に託された3つの機能に、「小原氏の教育理念を醸成する機能」「教育と教養に関する情報発信の機能」「全国的な教育改革を目指すSNS的機能」を挙げ、小原國芳のメディア戦略を指摘しました。

さらに、小原國芳の「理念の体現」に空間メディアの創出があるとし、きっかけとなる関東大震災という大惨事の後で、教育から離されてしまった子供たちを案じ、学校建設への意志を高めていきました。1929年に玉川学園が創設され、印刷メディアは一時期、『イデア』と『学園日記』の同時発行の時期を経て、『学園日記』が『イデア』の基本的な特徴を継承しながら、身体を用いた労作活動を教育の中心に据えた空間の形成過程の記録およびそうした情報の読者との共有が、教育理念の伝達を兼ね備えることになります。

山名教授は、講演の内容を総括して、次のように述べました。
「小原氏は情報メディアを駆使しつつ、教育のメディアを醸成し、その理念に基づいて、具体的な教育空間を創り出してきました。そうした空間形成もまた、労作という教育の一形態を促すものとなりました。そこでは認識の領域と密接に関わる身体性を交えた、より広い教養の領域が開かれていることになります。そうした教育の理念と実践の変容過程について、情報メディアを通して全国に向けて発信。そうした発信作業も労作教育の一環であることを、私たちは確認しました。

労作としての出版活動

玉川学園では、労作教育の研究会が初期は定期的に行われていました。玉川学園という具体的な空間が拠点となり、全国から人々が集まって研鑽し、学びの成果がまた出版メディアを通じて発信。印刷メディアと空間メディアの双方が関連し合いながら、その間に教育を生み出していく。メディアを鍵として、小原氏の足跡をたどり直す時、私の脳裏に浮かびあがったのは、そういった力動的なイメージでした。これを念頭に置き、現代教育におけるメディアと教育について思いをはせる時に、私たちはどのようなことが言えるのでしょうか。おそらく、ここからはさまざまなアイデアが浮かび上がると思います。小原氏がこの情報化社会に存命であったなら、いったいどのような行動をされていたでしょうか。想像してみたくなります。

雑誌『イデア』によって、マニュアル、つまり手仕事で汗水たらして実現しようとした、教育のソーシャルネットワーク化は今日のデジタルテクノロジーを駆使して、効率的になされた可能性があるでしょう。同時に、それによって実現されるわけではない要素は何か、ということも小原氏は目を向けたと想像します。身体性が大切となる労作的な要素がその一つです。また書物ということで、私たちがイメージする手触り感のある、ある種のものが持つ意味について、小原氏なら何をコメントするか。聞いてみたいものです。玉川学園という空間メディアは、今でもなお、私たちを揺さぶっているといえるでしょう」

2029年に創立100周年を迎える玉川学園。社会貢献としての出版事業を、よりいっそう高めていかなければなりません。ぜひご期待ください。

イデア書院設立100周年&児童百科辞典刊行90周年記念講演会「書物の海へ ― イデアとメディア ―」 令和4年12月10日

関連リンク

シェアする