町田の自然を伝える「いきものかるた」が完成―芸術学部卒業生が在学中に町田市と協働し、子ども達に伝わるデザインを工夫して制作―
路面シートがきっかけで、町田市から再度依頼が

市内で見ることのできる動植物に興味を持ってもらおうと、町田市が企画した「まちだいきものかるた」。このカルタ制作のプロジェクトに、玉川大学芸術学部メディア・デザイン学科(現 アート・デザイン学科)の永野聡さん(2024年3月卒業)が参加。今年4月に完成しました。このプロジェクトは町田市の広報誌でも取り上げられることとなり、永野さんと、指導・監修を担当した小北麻記子教授が取材を受けました。
今回のきっかけは、2023年に小北先生のゼミが町田市環境資源部環境共生課からの依頼を受け、小田急線玉川学園前駅周辺のポイ捨て防止を目的とした路面シートを制作したことだったと、小北先生は振り返ります。その後ゴミのポイ捨てを防止するには、前段として周辺環境への理解や愛着が必要ということから、カルタで生き物を知ってもらおうということになりました。カルタ制作プロジェクトは町田市職員の方々と協働して取り組みました。特に資料の整理やカルタに採用するいきものの選定などは環境共生課の皆さんに多大なご協力をいただきました。約1年をかけて町田市が保有する市内の生態系のデータベースを調べたり、生物調査を行うNPOの方、森林アドバイザーの方などの協力を得て、題材となる動植物が決定。読み札は、町田市立小山小学校の児童の皆さんに意見をいただき制作されています。こうして準備が整った後、小北ゼミに所属していた永野さんが卒業制作として絵札44枚の制作に取り組みました。
「子どもたちの最適な入口」となるタッチを模索

「これだけの数の絵柄を描く際に大切なのは、全てを並べた際にフラットに見えること」と小北先生。数枚を描くことは難しいことではありませんが、全ての絵札のトーンを揃えて描ききることは容易ではありません。そのためには、まず絵を描くことが好きであること。その上で永野さんは現地調査を行ったり、写真を丁寧に観察するなど、真摯な姿勢で作業を進めていったそうです。
加えて重要なのが、適切なアレンジを加えることでした。今回の主なターゲットは児童とその保護者であり、「図鑑ほどの写実性は必要ないが、マンガのようなタッチまではいかない」というバランスが求められました。「たとえば永野さんが描いたカワセミは水しぶきを上げるようなしぐさをしていますが、実際の羽根はこのような動きをしません。ただ、子どもたちにとって最適な入口となるような親しみやすさを大事にしました」と小北先生。また、多くの生き物が絵札の縁をはみ出しており、こうした部分で生き生きとした動きを表現するなど、細かな部分にもこだわって制作されました。
「学んだスキルを社会で役立てる」ことを学ぶ、いい機会に

今回のカルタ制作について、永野さんは「人間とは違いそれぞれ特徴が異なるので、その構造や生態を表現することに苦労しました。ただ、芸術学部在学中の路面標示制作で学んだ『小さな子どもにも理解できるよう、必要のない要素をそぎ落としながら表現すること』を活かすことができました。こうしたプロジェクトはリアルな反応をいただけるので、達成感や次への課題につながると思います」と語ってくれました。
既に市内の子どもセンターなどでも利用されており、「子どもたちがワッと寄ってくる様子に安堵しました」と小北先生。玉川大学内でも教育学部の仁藤ゼミで教材として活用するなど、活用の場が広がっています。「玉川学園小学部の先生にもお渡ししたので、子どもたちの反応を聞いてみようと思います」。
画力やデザイン力を磨くだけでなく、それを社会でどのように役立てるのかを重視する玉川大学芸術学部。今回のプロジェクトでも「楽しんで使ってもらうことを目指した」とのことでした。この取り組みは7月発行の町田市の広報誌「広報まちだ」に掲載されると同時に、市のホームページでも現物をダウンロードすることができます。ぜひ永野さんの力作をお確かめください。
教育学部・仁藤ゼミが「まちだいきものかるた」を活用
〜“伝承あそび”をテーマに活用法を検討〜
教育学部・乳幼児発達学科の仁藤喜久子准教授が指導するゼミでは、研究領域の1つである幼児教育・保育に関する学びの一環として、“伝承あそび”をテーマに活動を行っています。これまでにも、コマやけん玉などの昔あそびを題材に学びを深めてきましたが、今回は新たな題材として「まちだいきものかるた」を取り上げました。
仁藤先生が芸術学部での「まちだいきものかるた」の取り組みを知ったことがきっかけとなり、ゼミ単位での連携が実現しました。仁藤ゼミでは、このカルタを幼稚園や保育園の現場でどのように活用できるかをテーマに授業を展開。通常のかるた遊びにとどまらず、遊びの幅を広げるさまざまなアイデアが出されました。

たとえば、カルタのサイズを変えてみる、カルタを切って「パズル」にするといったカルタ自体への工夫のほか、植物当てゲームや読み手が動物や昆虫の動きをまねしながら読み札を読むといった遊び方のアレンジも提案されました。これらのアイデアは実際に授業内で試され、子どもたちとの関わり方をイメージしながら、体験的に学ぶ機会となりました。
仁藤先生は、「実際に幼稚園や保育園の現場で続けてもらわないと“伝承”にはなりません。カルタについても、どうやったら現場で継続して実践できるかを考えることが大切です」と語り、さらに「今回のカルタの題材が動物、昆虫、植物だったことも、幼稚園や保育園で活用しやすい要素です」と話してくださいました。
なお、今回考案した新たな遊び方は、今夏以降に学生が赴く教育実習や保育実習の現場でも活用する予定です。


