歌舞伎役者が語るホンモノの世界
市川高麗蔵丈「人生と職業~歌舞伎役者編~」を開催
玉川大学文学部国語教育学科の「キャリアセミナーA」(2年生対象)では、体験型授業として現役の歌舞伎役者から話を聞いて「人生と職業」について考える講義があります。玉川大学が重視する「労作教育」「ホンモノに触れる教育」の一環です。
今年は11月18日に玉川大学・玉川学園学友会寄附講座として「人生と職業~歌舞伎役者編~」が開催され、高麗屋の市川高麗蔵さんが登壇されました。
幼少期からの稽古で身につけた あらゆる役をこなす演技力
国語教育学科には学生が受け身となる授業はありません。この講義においても、企画書作成から講演依頼、事前打ち合わせ、お礼状まですべて自分たちで担い、当日の進行も学生が行いました。まずは、企画A班が「歌舞伎の概要」「本講義のポイント」を説明。その後、大きな拍手で高麗蔵さんをお迎えしました。


歌舞伎は400年以上の歴史を持つ日本を代表する伝統芸能で、ユネスコの無形文化遺産にも登録されています。1957年に日本舞踊の家に生まれた高麗蔵さんは、62年に初舞台を踏まれ、94年に十一代目市川高麗蔵を襲名されました。古典から新作歌舞伎まで女方を幅広く巧みに演じるだけでなく、男役である立役も演じます。
「僕も、中学からの8年間を玉川学園で楽しく過ごしました。歌舞伎は本当に間口が広くて、いろいろな歌舞伎があるんです。今日は、僕でわかることであればなんでも答えます」とご挨拶されました。

最初の質問「歌舞伎役者の一日」では、高麗蔵さんは東京や関西、九州などで年間250日ほど舞台に出ますが、いまの若い役者のなかには、テレビや映画といった映像作品に出演している人もいます。「若手が(映像に出ることで)知られて歌舞伎への興味が広がることは、すごくありがたいこと」と高麗蔵さん。
現在出演中の『歌舞伎絶対続魂(ショウ・マスト・ゴー・オン) 幕を閉めるな』については、稽古の行い方や時間の掛け方、共演俳優の意気込みなど、演出家や脚本家がつくものと、そうでないものとの違いを教えてくれました。『歌舞伎絶対続魂』は、三谷幸喜さんが作り演出を手がける「三谷かぶき」の最新作で、高麗蔵さんは榊山あやめ役で出演されています※。
- 11月2日から26日まで歌舞伎座にて、「松竹創業百三十周年 吉例顔見世大歌舞伎」の夜の部で上演されました。
「僕は、歌舞伎界のなかでも隙間産業で、お姫様からヤクザまでなんでもやる」と高麗蔵さん。役の8割を占める女方では、華奢に見せるために肩甲骨を寄せて肩を落としているので、立役では肩が下がらないように気をつけているそうです。
肩以外にも体の使い方は細かく異なりますが、「演じることは男も女も一緒。それをするために、子どもの頃から日本舞踊、長歌、三味線、お琴などを徹底的に叩き込まれるのです」と説明されました。
そのほかにも、「“お客様あっての歌舞伎”とよく言いますが本当にそう。お客様がクスッと笑うだけでもすごい力になるんです」と手応えを感じる瞬間について語られたり、「歌舞伎座」(東京・銀座)が新しくなった初日、「幕が上がった時に、「あ、歌舞伎座だ」って泣きそうになった」と劇場の空気が変わらなかったことを喜ばれたり、さらには「主役二人は、よくあそこまで仕上げた。並大抵の努力ではない」と今話題の映画『国宝』の感想もお話しくださいました。
歌舞伎は体で感じて楽しむ娯楽
講演がひと段落したところでグループディスカッションが行われ、高麗蔵さんは各テーブルを回って学生と会話を交わしました。


その後は、いよいよ歌舞伎の体験です。
立候補した学生を指導しながら、歩き方や殺陣にさまざまな型があることを解説する高麗蔵さん。見得の切り方では、「ここで、ばーったり」という説明が何度も出てきました。「ばーったり」は、「つけ」と呼ばれる拍子木の音を口で再現しているそうで、歌舞伎の見せ場では「つけ」が鳴ることを学びました。


その後、2度目のディスカッションと質疑応答を経て、学生へのメッセージで講義は終わりました。
メッセージのひとつは「人生と職業」についてです。4歳から舞台に立つ高麗蔵さんにとって、玉川学園時代は学校生活と大人の仕事が入り混じったものでした。「学校に来たら楽しいし、芝居も楽しい」と話される一方で、サッカー部の活動では大会前に稽古で練習に出ることができず、悩んだこともあったそうです。
「振り返ると学生時代は得難い貴重なものでした。僕は役者になることを意識していましたが、みなさんはこれから、ものすごく広い選択肢の中から仕事を選んでいきます。これは本当に楽しみであるし、焦ることはありません。この時間、この空間、この友だちを大事にすることが一番です。僕はいまでも中学・高校や大学時代の友だちとの関係が続いています。」
もうひとつは、学生たちが来年3月に歌舞伎座で歌舞伎を鑑賞するにあたっての心構えです。
「大衆演劇から始まった歌舞伎は、かしこまって観るものではありません。筋がわかならなくても、「あの人綺麗だ、いい声だ、衣装が素敵だ」で良いので、見たまま聞いたまま楽しんでください。演者として一番に訴えたいのは、“歌舞伎は娯楽”ということです」と締め括られました。
本日の講義は、学生たちの鑑賞体験の質を格段に高めるものとなりました。3月には、歌舞伎座で高麗蔵さんがご出演のホンモノの舞台を見て(「三月大歌舞伎」夜の部)、歌舞伎への深い理解と感動を手にします。なお、高麗蔵さんは、1月の歌舞伎座公演(「壽 初春大歌舞伎」夜の部『女殺油地獄』)では、河内屋与兵衛の兄 太兵衛役で出演されています。