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巨匠二人が語る創作の舞台裏――堀尾幸男・ひびのこづえ両氏による芸術学部寄附講座

2026.08.03

「本物に触れる教育」を大切にする玉川大学では、第一線で活躍する各分野の専門家を講師に招いて、「玉川大学・玉川学園学友会 寄附講座」を開催しています。
7月8日(水)は、舞台美術家の堀尾幸男さんとコスチューム・アーティストのひびのこづえさんが登壇。日本の舞台芸術のトップを走り続けているお二人が、芸術学部の1年生に向けて語りました。

思い描いていた未来との距離を知った大学時代

堀尾さんは、日本の演劇界・エンターテインメント界を牽引する舞台美術家です。野田秀樹さんや三谷幸喜さんの舞台作品をはじめとする現代演劇から、オペラやコンサート、歌舞伎、落語まで、これまで700公演以上を手がけてきました。
ひびのさんも、演劇、ダンス、バレエ、映画、テレビ、広告など、幅広い分野で活躍される、日本を代表するコスチューム・アーティスト。NHK Eテレの長寿番組「にほんごであそぼ」の衣装もひびのさんの作品です。

この日は、芸術学部1年生の必修科目「芸術概論」で寄附講座が開講され、お二人がステージに上がると大きな拍手が起こりました。
演劇・舞踊学科の長峰麻貴准教授の司会で進められた本講義は、それぞれの大学時代のお話から始まりました。

中学から芝居をしていた堀尾さんは、絵を描くことも好きでした。
高校生になると舞台美術も担当するようになり、これを将来の仕事にしようと決心。当時、唯一舞台美術を勉強できた武蔵野美術大学へ進みましたが、「(大学に)役者はいないし、先生はバレエやオペラの舞台の人だった」と堀尾さん。そこで、演劇の舞台を勉強するためにドイツのベルリンに留学して、多様な国籍の学生たちと触れ合いました。「向こうでは寂しいことも経験して我慢した。それが良い勉強になった」と力強く語りました。

ひびのさんは東京藝術大学デザイン科の出身です。
当時は演劇をまったく観ず、コスチュームにも一切興味がなかったというひびのさん。目指していたのはアートディレクターで、「将来は資生堂か電通か博報堂のアートディレクターになると決めていました」と話しました。大学生活は天国のように楽しかったそうですが、「4年目にはたと気づきました。私の時代は、女子にアートディレクターの仕事はなかった。希望していた企業は男子学生しかエントリーできない。ショックでした」と振り返りました。

野田演劇のメタモルフォーゼを成立させる、「見立て」の舞台と衣装

堀尾さんとひびのさんは、野田秀樹さんの劇団「NODA・MAP」でよく一緒に仕事をしています。
お二人が手がける舞台空間は極めて高く評価され、「物語のテーマを五感に訴えかける」と言われています。初めて一緒にやった『真夏の夜の夢』(1992年初演)から、現在上演中の『華氏マイナス320°』まで、さまざまな作品の背景を話してくれました。

『THE BEE』(2007年日本初演)は、舞台の正面から床にかけて広がる大きな1枚の紙がセットです。話が進むにつれて、観ている人は紙を通して壁や窓、道路などを連想し、さらには主人公の精神の崩壊も感じていきます。
「シンプルだから観客に想像させる。リアルに建物が建ってなくても、いろいろなものが見えてくる。それが堀尾さんのすごさ」とひびのさん。
堀尾さんは、「ドイツであれば舞台に壁をつくる。ヨーロッパはリアリズムだからね。一方、野田さんはメタモルフォーゼ(変容・変化)の塊」と言い、ひびのさんも「見た目と変容。野田さんのすべてがそこですね」とうなずきました。

実は、この紙のアイデアは、カフェでの打ち合わせの最中に、怒った堀尾さんが紙ナプキンをくしゃくしゃにしたことから生まれました。ひびのさんは、その発想力や瞬発力、そして演出家を納得させる話術を絶賛。堀尾さんは、『贋作 罪と罰』(1995年初演)ではプチプチ(エアークッション)を雪に、『透明人間の蒸気』(2004年再演)ではダンボールを砂丘に見立てています。

一方でひびのさんは、「セットは毎日つくり替えられるのに、衣装は1着しかつくらせてもらえない。予算も二桁ぐらい違う」と残念がります。舞台を重ねるごとに衣装はボロボロになり、その度に繕うそうです。
「近くで見たら本当にひどい。でも、舞台に立つとマジックがかかっちゃって、みんな美しく見える。素晴らしい」と、役者の力を称えました。

堀尾さんのセットがミニマルなだけに、NODA・MAPではひびのさんの衣装がストーリーを語ります。
『キル』(1994年初演)について、堀尾さんは、「(殺される役者が衣装を変えて)真っ赤な服を着て出てくるんだよね。素晴らしいよね」と褒めると、ひびのさんは、「セットが変わらないから衣装を変えるしかない。でも、それがすごく面白かった。私は『衣装をつくることは空間をつくること』と考えています」と答えました。

学生に刺激を与える、新しい表現に向かう姿

最後にひびのさんは、「私は、舞台衣装をつくるというよりも、総合芸術である演劇の一端を担っていると思っています」と話しました。
そして、こう語りました。
「一緒に仕事をしながら、堀尾さんの素晴らしい舞台美術と野田さんの演出手腕をずっと勉強してきました。最近は、自分で衣装からストーリーを考え、音楽家に作曲してもらい、ダンサーに踊ってもらうという、パフォーマンス作品をつくっています。演劇における衣装はどうしても補助的なものになってしまうので、発想から(カタチにする)最後までを自分でやることで、(芸術への)答えを出したい」

堀尾さんは、「僕は、次は劇場をつくろうと思っているんです」と静かに言いました。
「1か月間、そこに観客を入れて満杯にしたい。これまで演出家から勉強したものを取り入れて、空間をゼロからつくることをやりたい」と熱を込めました。
輝かしい実績を持ちながらも、なお新しい表現へと向かうお二人の姿に、表現者・アーティストとしての本質的な凄みを感じた瞬間でした。

今回の寄附講座では、「互いのクリエイティビティを響き合わせ、演出家の意図を三次元化していく」という、プロの仕事を体感しました。
ここで得た刺激は、これから専門領域を学ぶ学生たちにとって、大きな原動力となることでしょう。

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