「ベッカンコおに」カナダ・アメリカ公演
玉川大学演劇舞踊団によって、日本民話劇「ベッカンコおに」が海を渡ってカナダ・アメリカにて公演された。1986(昭和61)年、バンクーバーでの交通博EXPO'86における公演をはじめとして7都市の10会場にて17回の公演。1961(昭和36)年のメキシコ公演以来、6度目の海外公演となった。こうした海外公演は、学生たちの活動を通して日本文化を海外に紹介することに繋がっている。
1.「ベッカンコおに」のカナダ・アメリカでの公演
心やさしい鬼と盲目の美少女ゆきの物語を描いた児童劇「ベッカンコおに」。原作はさねとうあきら氏で、日本の古典芸能(能・狂言・歌舞伎)の様式を基本とした作品となっている。この「ベッカンコおに」の公演を3月に行っていた本学文学部芸術学科演劇専攻のもとに、カナダのナナイモにあるマラスピナ大学(現在のバンクーバー・アイランド大学)より招聘があり、カナダ・アメリカ公演が実現。この招聘により、バンクーバーで開催の交通博EXPO’86での公演をはじめとして7都市の10会場にて17回の公演を行うこととなる。出発は8月26日、帰国は9月20日。それに先立って、8月6日と7日の両日、麻生文化センター(小田急線新百合ヶ丘駅前)にて披露公演を行った。
このカナダ・アメリカ公演を観られた方から、1989(平成元)年のワシントン州制定百年祭にぜひ参加してほしい旨の話があった。そして実際に3年後の1989年、ワシントン州制定百年祭の関連事業として8月14日から9月20日の間、玉川学園演劇舞踊団がアメリカ・カナダの8都市を訪れで23回の公演を行っている。7度目の海外公演であった。
2.ナナイモでの公演
玉川大学演劇舞踊団は、8月26日午後5時に成田空港を出発、同日午前9時30分にカナダのシアトルに到着。空港ではマラスピナ大学の副学長をはじめとする関係者が出迎えてくれた。シアトルから最初の公演地であるバンクーバー島のナナイモまでは、マラスピナ大学のスクールバスで移動。約1トンの舞台用機材を積んだトラックとともに、午後6時30分に目的地であるマラスピナ大学に到着し、それぞれホスト・ファミリーとともに家路に着く。
演劇舞踊団は、27日はマラスピナ大学の劇場にて舞台準備を行った後、夕方からはマラスピナ大学のカフェテリアにて開催されたリッチ・ジョンストン学長主催の夕食会に参加。28日はいよいよ最初の公演。気持が昂ぶるとともに、心配な面もあった中、公演は大成功で、学生たちはスタンディング・オベーションに感激。29日の公演も大喝采で無事に終了。30日は、夜のマラスピナ大学における最後の公演の前に、子供たちを対象に「ベッカンコおに」を披露。マラスピナ大学の人たちからの提案で、急遽日本語のわからない観客のために英語のナレーションを劇の途中途中に挿入することに。ナレーション(録音)は、マラスピナ大学の演劇教師が担当。9月1日はビクトリア市(ブリティッシュ・コロンビア州の州都)を見学。夕方からは玉川学園ナナイモ校地にてマラスピナ大学の関係者やホストファミリーの方々を招いてバーベキューパーティーを開催。団員たちは玉川太鼓を披露した。
3.カナダ諸都市での公演
2日はバンクーバー島を離れ、パウエルリバーにあるマラスピナ・カレッジの分校へ。そこで新しいホストファミリーと対面。夜は大学の体育館にて、この町のダンスクラブの人たちを対象とした日本舞踊のワークショップを開催。3日は、公演を予定していた劇場がストライキのために使用できず、マックス・カメロン高校の体育館に会場を変更。ただその体育館は午後3時まで授業があり使えず。そのためリハーサルなどができずにぶっつけ本番となったが、公演は無事に終了した。
4日はバンクーバー島に戻り、ナナイモの北に位置するポートアルバーニへ。公演する場所は軍隊の演習地だったところで、舞台は土ぼこりの立つ広場に仮設で設置されたもの。しかも気温は35度を超えていた。夜は秋祭りの式典。玉川太鼓でスタートし、トルンパー市長の挨拶の後、「ベッカンコおに」の公演。終了後、団員たちは秋祭りのスタッフと交歓。その後ナナイモの南に位置するダンカンへ。ホテルに到着したのが、なんと午前2時30分。
5日は朝からカウチン・コミュニティー・シアターにて公演準備。その間、太鼓メンバーは近郊の小学校、中学校、高等学校で太鼓演奏を披露して公演の宣伝を行う。さらにビクトリアにてテレビに出演。その夜、午後8時から公演を行った。6日、ビクトリア大学の講堂にて公演の準備。ビクトリアでは学生たちは日系人の家庭にホームステイ。夜8時より公演を行う。7日は午後2時から公演を行い、終演後にはビクトリア大学演劇科の劇場を見学。
4.バンクーバーでの公演
8日、団員たちはフェリーでバンクーバーへ。ブリティッシュ・コロンビア大学のアジアセンターにて公演の準備。午後8時から公演を行う。9日は、新渡戸庭園や文化人類学博物館などを見学した後、午後8時より公演。10日、宿舎先がブリティッシュ・コロンビア大学にあるゲージ・コンフィレンス・センターから、EXPO出演者の専用宿舎であるバンクーバー・ジェネラル・ホスピタルの看護婦寮に移動となった。宿舎にチェックイン後、ニューウエストミンスターにあるダグラス・カレッジにて公演の準備。
12日の夜、EXPO内のゼロックス国際劇場にて「ベッカンコおに」の公演。約1,400名の観客は総立ちで拍手。13日は夕方まで自由行動で、夜8時30分から公演。14日は、EXPO内の日本館の劇場にて、太鼓の公演を2回行う。公演の合間を使って、団員たちは日本館を見学し、HSSTリニアモーターカーに試乗。夜は自由行動を楽しむ。
5.アメリカのタコマでの公演
15日、カナダを離れ、アメリカのタコマにあるタコマ・コミュニティー・カレッジへ行き、公演の準備。16日は昼と夜の2回公演。その間の午後5時30分からタコマ・コミュニティー・カレッジのカフェテリアにて日系人主催のレセプションに参加。タコマ・コミュニティー・カレッジのオプガード学長をはじめ、視察でアメリカに滞在していた小原哲郎学長、シアトルの磯貝総領事なども出席。会場には日本食が並ぶ。団員たちは玉川太鼓を披露。そしてその夜の公演もスタンディング・オベーションで、大成功に終わった。
17日にはギグ・ハーバーのペニンスラ高校の講堂にて17回目の公演。これが最後の公演となった。18日はシアトル小旅行。市場やワシントン大学を見学。昼食は小原学長の招待でシーフード。夜はタコマ・コミュニティー・カレッジのカフェテリアにてホストファミリーの方々との夕食。19日はタコマ市長を表敬訪問した後、帰国の途へ。20日、日本に帰国。団員たちは、26日間にわたる17回の公演を無事に終えた。
6.カナダ・アメリカ公演のスケジュール
月 | 日 | 主な活動 |
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8 | 26 |
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7.写真で見る「ベッカンコおに」
- 写真はいずれも8月に行われた麻生文化センターでの披露公演の時のもの
関連サイト
参考文献
- 小原哲郎監修『全人教育』第460号 玉川大学出版部 1986年
- 小原芳明、法月敏彦「海を渡った日本民話劇―『ベッカンコおに』カナダ・アメリカ公演報告―」(『全人教育』第461号 玉川大学出版部 1986年 に所収)