異分野融合の実践の場、Consilience Hall 2020の竣功式。秋山仁氏による記念講演会も開催されました。
2021年4月から利用が開始される予定のConsilience Hall 2020。その竣功式と数学者で東京理科大学特任副学長である秋山仁氏による竣功記念講演会が、1月18日に開催されました。
ちょうど1年前、「Consilience Hall 2020」の向かいにある「STREAM Hall 2019」の竣功式が行われました。その際は関係者が一堂に会しての修祓式でしたが、今回は新型コロナウイルスの影響もあり、小原芳明学長以下代表者のみが神事に参加しました。関係者は「University Concert Hall 2016」内の“Marble”にて、リモートでの参加となり、鶴間熊野神社の池田宮司による神事が滞りなく行われた後、小原学長による挨拶がありました。
「このConsilience Hall 2020の竣功により、ESTEAM*エリアがほぼ完成したことになります。この建物のコンセプトは、多くの人たちが協力して学問を究めていくところにあります。本日は神事をリモートで行いましたが、これも時代のなせる技であり、ESTEAM教育を象徴しているのではないでしょうか。これからここで学ぶ学生たちが新しい何かを目指し、研究を進めていってほしいと思います」。
- *ESTEAM:
ELF(English as a Lingua Franca:共通語の母語を持たない人同士のコミュニケーションに使われる言語としての英語)、Science(科学)、Technology (技術)、Engineering(工学)、Arts(芸術)、Mathematics (数学)。
小原学長および工事関係者の挨拶の後、「芸術と科学 未来を拓く」と題した、秋山仁氏による竣功記念講演会が開催。この講演会にはESTEAM教育にちなみ農学部、工学部、芸術学部の学生約40名と、アートラボで活動しているK-12の児童・生徒約30名も参加しました。秋山氏は数学や科学の関連性や面白さを、持参した手作りのさまざまな制作物を使ってわかりやすく、楽しく説明してくれます。最後には、「間に合わなかった」と未完成ではありましたが、残像効果によって玉川学園の校章が現れる模型を紹介し会場から大きな拍手が寄せられました。カラフルで動物をモチーフにしたような制作物があったからこそ、秋山氏の「自ら不思議を感じ問題意識をもって、試行錯誤しながら解決していく能力が、これからは必要になります」という言葉は、生徒たちにより強く響きました。
秋山氏の講演会終了後は、メディア関係者を集めて「Consilience Hall 2020」の内覧会が行われました。「ESTEAMエリア」には、世界を知るための「ELF Study Hall 2015」や音楽・芸術を知るための「University Concert Hall 2016」、そして異分野融合の拠点となる「STREAM Hall 2019」が既に開設されています。「Consilience Hall 2020」は、その異分野融合を実際に行う施設であり、これにより5つの棟からなる「ESTEAMエリア」が完成となりました。
「Consilience」とは“知の統合”のこと。農学部、工学部、芸術学部が共有する実験・研究棟であるこの施設は、まさに異なる学問分野が出会い、融合する場となります。施設内も学部を限定せず横断的に学修できるような構造に設計されています。そこからお互いが刺激を得ることで、新しい発想が生まれ創造していく場として活用していきます。
また外観に関しては水平ルーバーを二重にするなど、「STREAM Hall 2019」とは逆に横方向のラインを強調。これは深い庇を作ると同時に、設備の更新性や清掃メンテナンス性の向上を目的としています。また天井部の配管を敢えて隠さない内観には、建物の構造などについて学生に関心を持ってもらいたいという想いが込められているなど、建物の意匠や採用された技術一つひとつにこだわりが感じられる施設となりました。
Consilience Hall 2020 フロア概要
1F
絵画工房、工作工房、Glass Blowing Workshop(ガラス工房)、陶芸工房、Next Gen. Mobility Workshop(ケムカー工房)などが入るフロアです。このフロアの道路に面した側はガラス折戸になっており、学生たちのものづくりの光景が見られる他、折戸を開けば屋外も教室に取り込む形で教育活動に利用することができます。
2F
受講者の人数に合わせて柔軟に対応できる大・中・小の6つの教室があるフロアです。天井には放射空調を行うパネルを設置。室内にいる人の体温を感知してパネル自体が冷やされたり暖められたりする放射効果を用いることで、室温の温度分布が均一になり、学生たちは気流感のない快適な空間で学ぶことができます。
3F
ガラス張りで見晴らしの良い学生ラウンジは、ものづくり・実験を行う施設にふさわしいフラスコを活用した照明器具を採用し、憩いの場らしい雰囲気に。またTEAL(Technology Enabled Active Learning)ルームと呼ばれるスペースには可動式スタンディングデスクを設置し、学生同士で授業の予習・復習を行うにも最適な空間になっています。
4F・5F
物理・化学・生物などの教育用実験室が入るフロアです。今後の実験室に対するニーズにもフレキシブルに対応できるよう、給水・電気・ガスの供給システムと空調・照明を一体化したユニット「シーリングフリー」を採用。「研究機関での採用はありますが、大学では初めてではないでしょうか」と建設会社の方も語る、最新のシステムです。これにより実験台が可動可能になり、さまざまなシーンに対応できるようになりました。
また、2015年の国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals)についても、「STREAM Hall 2019」に引き続き取り組んでいます。7つのゴール(3:すべての人に健康と福祉を、4:質の高い教育をみんなに、5:ジェンダー平等を実現しよう、 6:安全な水とトイレを世界中に、7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに、8:働きがいも 経済成長も、9:産業と技術革新の基礎をつくろう)を重点目標におき設計されています。たとえば屋上にあるトップライトからダクトを通して自然光を取り込み、反射率の高い鏡面パネルを用いて3階から5階の廊下を明るくする光ダクトの採用や、多目的トイレを設けることでLGBTにも配慮するなど、SDGsが掲げるゴールを目指しています。
この日の竣功式および内覧会の参加者には、記念品としてサイテックファームで栽培された「"Moonlight sonata" LED Lettuce」などが用意されました。このレタスは芸術学部の小佐野圭教授によるピアノ演奏、ベートーヴェンの「月光ソナタ」を聴かせて育てられました。これらの記念品が収められたビニール製の透明バッグは、芸術学部の小北麻記子教授がデザインを手がけ、工学部の福田靖教授らがその制作を担当しています。さらに福田先生は、このバッグに付ける玉川学園の校章をモチーフにしたチャームも制作するなど、まさに3学部の融合を象徴する記念品となりました。
2021年4月からの利用を目指している「Consilience Hall 2020」。未だに新型コロナウイルス感染症の収束が見えず、予測が難しい状況ではありますが、リモートでは行えない実験・実習のためのこの施設が本来の機能を果たせる日が来るまで、知恵を出し合い、工夫を凝らした学生の活動が見られるはずです。この施設の完成を機に、新しい時代の全人教育ともいえるESTEAM教育がより深まり、これまでなかったような教育や研究の成果が生まれることに期待します。