『守り、継承する』ための雑木林伐採。学生たちによる聖山労作が、本年度も行われました。
2019年に迎えた創立90周年の節目より、さまざまな記念プロジェクトを行っている玉川学園。その一つ「聖山労作」が、在校生や教職員、卒業生も参加して2019年度からスタートしています。このプロジェクトは今年度も継続する予定だったのですが、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、なかなか機会を作ることができず、2021年2月にようやく再開することに。2月12日(金)には農学部の学生(水野宗衛教授と浅田真一教授のゼミ生各5名)と教育学部の学生(市川直子准教授のゼミ生13名)が参加して、午前と午後の2回にわたって労作が行われました。
2年前には草木が抜かれただけだった頂上部ですが、既に児童・生徒・学生や卒業生の労作によってかなり整備が進んでいます。今回の労作で取り組むのは、その周辺の枯損木や樹木(低木・中木・高木)の伐採と運び出しです。参加する学生たちは動きやすい服装に着替えた上でヘルメットを被り、事前の検温はもちろんのことマスクの着用や手指の消毒など新型コロナウイルス感染防止対策を実施して集まりました。
まずは小学部で教鞭を執っていた佐藤邦昭先生が、聖山の歴史について説明を行いました。佐藤先生は自然に親しむ教育を推進し、現在もK-12の保護者を対象に丘めぐりなどを積極的に行っています。また自身も玉川で学び、かつては聖山で礼拝を行ったり、周辺の樹木を伐採して薪として使用するなどの労作を経験してきた玉川っ子でもあります。「創立者の小原國芳先生は、学園を作る際に宗教教育と労作教育を取り入れたいと考えたそうです。そしてキリスト教の信者でもあった國芳先生は、聖山を祈りの場にしようと考えました。当時の聖山は麓の辺りまで芝生で覆われており、頂上からは丹沢や富士山を臨むことができました。塾生は学園内で寝泊まりをしていましたから、朝6時の太鼓の音を合図に全員がこの場所に集い、礼拝や体操を行って一日を始めたのです」と佐藤先生。さらに今回伐採を行う雑木林についても言及しました。「雑木林とは自然林ではなく、人の手によって作られた二次林なんですね。昔の人は木々を植え、ある程度成長したら間引きをし、そこから大きく育った木を伐採して薪や炭を作っていました。けれども石油や電気が中心となった現在、日本各地の雑木林は手つかずの状態で放置されたままです。歳をとり、病気に冒された樹木も増えてきました。この聖山にもそうした木があるので、皆さんの手で昔の雑木林に戻していこうというのが、今回のプロジェクトです」。
その後、農学部の卒業生でもある造園業者の方から樹木を伐採する際の諸注意がありました。学生たちはその話を真剣に聞いた後、雑木林の中へと入っていきます。まず伐倒する方向に受け口と呼ばれる楔(くさび)形の切り込みを入れた上で、反対側に追い口と呼ばれる水平な切り込みを入れていきます。普段はチェーンソーを使用して樹木を伐採しているそうですが、この日は日本で古くから使われている両手挽きの鋸も用意され、大きな木は二人がかりで伐採を行うことになりました。伐倒方向に他の木が生えていないかを確認しながら、学生たちは協力して樹木を切っていきます。切り出した樹木は一旦聖山の頂上部へと運ばれますが、どの順番で切れば運び出す経路が確保できるのかなども考慮に入れる必要があります。学生たちは作業の段取りを考えながら集中して取り組んでいたため、当初予定していた時間を大幅に短縮し、伐採が終了しました。
この日の労作を終え、間引きされた木々の隙間から大体育館や線路向こうの屋内プールも見えるように。風通しが良くなり日射しが地面まで届くようになった雑木林では、樹木も健全に成長することでしょう。「樹木の伐採イコール、自然破壊」といった印象がありますが、日本の雑木林は定期的な伐採を行うことで新陳代謝が繰り返されてきました。伐採した樹木は、薪や炭として有効活用されてきたのです。春になると多くの人が悩まされるスギ花粉症も、かつて植栽したスギ林が間引きや伐採をされずに放置されていることが理由の一つとして挙げられています。これまで聖山から切り出された木材は、昨年運用開始した「STREAM Hall 2019」のインテリア材に再利用しています。また、K-12ではTamaTreeプロジェクトのメンバーやIBクラスの生徒が木工芸品や椅子に加工など、今の時代にふさわしい形で活用されてきました。
労作終了後、今回の聖山の改善に協力いただいている自然環境の再生をデザインする業者の方からは、雑木林の維持には樹木が成長する「時間」、立地など周辺環境との調和を考える「空間」、そして人がどう関わっていくかを考える「循環」が重要であるといったお話がありました。
参加した学生からは「聖山の存在は知っていましたが、実際に訪れたのは今日が初めてです。今回のプロジェクトは『守り、継承する』がコンセプト。自然は私たちの生活に欠かせないものですが、その維持には人の手も欠かせないのだと感じました。卒業後は教員の道に進みますが、今回学んだことを子どもたちにも教えていきたいと思っています(教育学部教育学科4年:山本誉さん)」、「私の学科では植物を育てることが専門で、伐採は初めての経験でした。実際に伐採してみるとかなり大きな木もあってずっしりと重く、その年月を肌で感じることができました。卒業後は食品販売の会社への就職が決まっていますが、もしまた玉川大学を訪れる機会があれば、この聖山にも立ち寄りたいですね(農学部生産農学科4年:小野順生さん)」といった感想が聞かれました。
近くには礼拝堂や小原記念館などもある聖山の周辺エリア。聖山の整備が今後さらに進めば、このエリアが学園の理念を象徴する場となっていくことでしょう。今後は在校生も卒業生も集える学園創立当時のような思索の場へと変わっていくことでしょう。
この聖山労作プロジェクトは創立100周年を見据え、これからも定期的に行っていく予定です。