『全人』2011年4月号 No.749より

2011.04.01

東日本大震災で被災された方々に、深くお見舞い申しあげます。『全人』の4月号では地震以前に、三陸の海の豊かさを守るための漁民による植林活動について、京都大学フィールド科学教育研究センターで社会連携教授も務めるカキ養殖業の畠山重篤さんに寄稿をいただいていました。今号で紹介するのは、被災以前の三陸海岸の取り組みです。被災地に一日も早く、暮らしと自然が戻るように願ってやみません。
年度末をもって終了する連載がいくつかあります。ご愛読ありがとうございました。4年間にわたった連載「家庭力」も今回が最終回。俳優の赤井英和さんから、「生きていると仕方ないことっていっぱいある。エネルギーは明日のために使おう」とたくましいメッセージをもらいました。
研究エッセイは、玉川大学リベラルアーツ学部の勝尾彰仁准教授による「〈おいしい〉科学館のつくりかた」。アメリカの科学博物館での学芸員経験もふまえ、科学や技術の世界に親しめる本当に魅力的な科学館とは何かを探ります。学園ニュースでは、心の教育実践センター主催のアドベンチャー教育研究会などをレポートしています。

2011年4月号目次

畠山重篤氏。カキ養殖業を営む傍ら、豊かな海をとりもどすために漁民による植林活動や子どもたちを養殖場に招いて体験授業を行う

1989年9月、三陸気仙沼湾をはるかに臨む岩手県室根山に、色とりどりの大漁旗が翻った。
その下では馴れない手付きで、ナラやクヌギなどの苗を植えている陽焼けした男たちの姿があった。「第一回森は海の恋人植樹祭」という看板も見受けられた。
山に大漁旗とは不思議な光景であるが、気仙沼湾でカキの養殖業を営む漁民たちの切なる願いを込めた植樹祭だったのである。（略）
カキの漁場は汽水域（＝淡水と海水が混じり合う海域）である。日本一の産地、広島湾には太田川、第二位の仙台湾には北上川が流入している。
森林の腐葉土を通ってくる河川水に、カキの餌である植物プランクトンを育む養分が含まれているからだ。雪が少なかったり、雨が降らないとカキの育ちが悪いことを漁民は経験で知っているのだ。

「山に翻った大漁旗」畠山重篤 p4
羽田貴史東北大学教授。玉川大学FD講演会で

2008年に中央教育審議会より提出された「学士課程教育の構築に向けて」と題した答申のなかには、「FDを単なる授業改善のための研修と狭く解するのではなく、我が国の学士課程教育の改革を目的とした教員団の職能開発として幅広くとらえることが適当である」とされています。（略）
大学教員は、「研究」と「教育」が主な仕事で、教員に求められる能力の中核も研究と教育の能力です。FDが授業改善など教育活動に関するものだと解釈すると、大学教員の部分的な能力しか開発できず、意味のないものになってしまいます。（略）大学教員は研究者であり教育者であるのです。
あらためて今、FDは「教員の全面的な能力開発」と認識し直し、そのうえで、大学教員に求められる能力は何か、どのように開発していくべきかを考えたいと思います。

「ユニバーサルな学士課程教育6 大学教員の能力能力開発の現状と課題」羽田貴史 p11