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玉川学園創立90周年記念特別展「ジョン・グールドの鳥類図譜─19世紀 描かれた世界の鳥とその時代」(池袋会場)とシンポジウム「19世紀のジョン・グールド鳥類図譜から今何がわかるか」が開催されました

2019.11.19

「ジョン・グールドの鳥類図譜─19世紀 描かれた世界の鳥とその時代」6パート構成で見えてくるグールドの偉業と博物画黄金時代の世界観

去る10月5日(土)〜13日(日)、東京・池袋の東京芸術劇場「ギャラリー1」で「ジョン・グールドの鳥類図譜─19世紀 描かれた世界の鳥とその時代」(池袋会場)が開催されました(現在、玉川会場として玉川大学教育博物館にて2020年2月2日まで開催中)。グールドの鳥類図譜は、教育博物館所蔵の41巻に加え、山階鳥類研究所から鳥類図譜3巻を出品していただき、全44巻が展示されました。会場内は、ヨーロッパの博物画の歴史から、グールドの鳥類図譜の価値や意義を読み取れるように、以下の6パートに構成されていました。

「19世紀に至るまでの博物画」

グールドが鳥類図譜を手がける以前、1500〜1700年代の鳥類博物画の流れについて紹介。

「グールド工房の画家と制作を支えた人々」

グールドの鳥類図譜の制作に関わった妻エリザベスやエドワード・リア(1812-1888)、ヘンリー・コンスタンティン・リヒター(1812-1888)らの画家や石版印刷の技術者らを、彼らが手がけた作品を通して紹介。

「グールドの鳥類図譜ができるまで」

残されているグールドの原画から、どのように石版での印刷から彩色が行われるかのプロセスを紹介。今回の特別展に向けて復元された石灰石製の石版も展示。

「描かれた鳥たち─グールドの鳥類学」

ハチドリやフウチョウなどグールドを魅了した代表的な鳥類の作品について解説。進化生物学者の長谷川政美先生と玉川大学教育博物館外来研究員 黒田清子氏による長さ約2メートルに及ぶ鳥類の進化の様子を示した「グールド鳥類図譜による鳥類系統樹マンダラ」を展示。また、本邦初公開となる山階鳥類研究所所蔵のグールドの標本6体を展示しました。

「グールド制作鳥類図譜」

第一弾となる『ヒマラヤ山脈百鳥類図譜』から、妻エリザベスとの最後の仕事となった『オーストラリア鳥類図譜』、一つの完成形ともいえる『イギリス鳥類図譜』、最後の出版となった『ニューギニア及びパプア諸島鳥類図譜』までを実物展示。

「19世紀を彩る鳥類図譜」

博物画の黄金時代と呼ばれる19世紀を舞台に活躍したナポレオンの専属画家ジャック・バラバン(1767-1838)、グールドより一世代前に『英国鳥類学図譜』に図版を提供した英国人プリドー・ジョン・セルビー(1788-1867)らの作品を紹介。

展覧会には初日より200名を超える来場者があり、開館された7日間で約1300名がグールドの作品を鑑賞しました。

シンポジウム「19世紀のジョン・グールド鳥類図譜から今何がわかるか」で語られたこと

会期中の10月8日(火)には、同劇場「ギャラリー2」でシンポジウム「19世紀のジョン・グールド鳥類図譜から今何がわかるか」が開催されました。

基調講演の講師は、グールド作品をこよなく愛する荒俣宏氏(作家・博物学研究者・京都国際マンガミュージアム館長)でした。荒俣氏は、会社員時代、出張中のパリのホテルの部屋にかけられていた複製画を見てグールドの描く鳥に魅了され、その後、ロンドンの古書店で偶然に本物と出会ったエピソードなどを披露。小説家として成功してようやく念願のグールド作品を購入できた喜びを話してくださいました。
続いて、今回の展示内容にも盛り込まれた19世紀の博物画と鳥類図譜の黄金時代について紹介。「見た目通りの鳥を原寸大で描く情熱」が鳥類図譜の潮流を作り上げ、英国やフランスでそれぞれ独自の発展を遂げた歴史的経緯についての解説がありました。

ナポレオンはヨーロッパ戦線にお抱え画家ジャック・バラバンを帯同し、黒船で日本に開国を迫ったペリーは、ジョン・ジェームス・オーデュボン『アメリカの鳥』を徳川将軍に献上するなど、精緻で科学的な鳥類図譜が各国の国威発揚の道具にもなっていたそうです。豪華なキャビネット入りのグールドの鳥類図譜は、上流階級の結婚祝いとしても喜ばれたといった興味深いエピソードも紹介されました。
また、16世紀に実物写生と資料性のために近代博物画が誕生し、次第に博物画に「生きているように描くリアリティー」が求められるようになった経緯が軽妙な語り口で解説されました。単なる実物写生のリアリティーではなく、自然の中の動植物を生き生きと表現するアーティスティックなリアリティーへと博物画の潮流は変化していきました。硬い線でアーティスティックな構図が特徴のフランス、柔らかい描画で風景を重んじたイギリス……科学イラストレーションの発展にもそれぞれの国によって表現に違いがあったようです。

荒俣氏は、妻エリザベス、エドワード・リアらの画家たち、グールドとダーウィン進化論の関係、ヴィクトリア時代の英国という文化背景などにも触れ、まるで歴史の証人のように語り尽くす様子に、聴衆は熱心に耳を傾けていました。

シンポジウムのメインイベントであるパネルディスカッションでは、荒俣氏に加えて、今回の展覧会に特別協力いただいた公益財団法人山階鳥類研究所の奥野卓司所長、また展覧会の企画等で多大な尽力をされた黒田清子氏(玉川大学教育博物館外来研究員・公益財団法人山階鳥類研究所フェロー)、司会として柿﨑博孝(玉川大学教育博物館教授・主幹学芸員)が参加しました。

奥野氏は展覧会で見どころとなるグールド鳥類図譜の特色(美と写実の共存、プロデューサー役グールドの下での合作、背景となる自然環境や他の生物の正確な描写など)を一つひとつ解説した後、同時代の日本・アジアでも同様の発想から描かれた博物画があったのではという問題提起をされました。江戸時代の「禽譜」や「花鳥画」との比較から、日本人の生き物に対する考え方や描くための発想、技法などの特色を指摘。荒俣氏も大いに関心を示し「日本の花鳥風月では、真より生、単に写実するのではなく人間が学ぶべき理想の野生が描かれているのでは」という“荒俣説”を披露しました。

グールド鳥類図譜の完成形ともいえる『イギリス鳥類図譜』からうかがえる「グールドのこだわり」を3点あげたのは黒田氏でした。
まず指摘したのは「情報の多さ」。本命の鳥以外にも巣やヒナ、行動・習性を表す要素、背景となるイギリスの自然などが一枚の絵の中に、博物学的な情報として織り込まれていることを解説されました。
次に「ドラマ性のある図版」。「ハヤブサに襲われたマガモ」「雪の中に保護色で隠れ、外敵の目を欺くライチョウ」など、グールドは自然の中のドラマを好んでテーマにしました。このことは「真より生」という“荒俣説”の裏付けになるかもしれません。
そして最後に、罠にかかったコウライキジやハシボソガラスの絵を示しながら指摘したのは「鳥と人との関わり」です。絶滅したオオウミガラスをあえて描いたのも、人の手でかけがえのない種が絶滅してしまうことへのグールドの危惧と警鐘だったのではないかとお話しされました。

荒俣氏は「今回、黒田さんの解説で初めて気づいたことも多く、私も勉強させてもらいました」と話すと、黒田氏は「荒俣先生のヴィクトリア朝時代と鳥類図譜の関係についてのお話はとても面白く伺いました」と終始和やかなムード。ディスカッションは荒俣氏がリードしながらも、三人三様の鳥人「グールド」の世界観に引き込まれ、ともに分かち合い、思いを巡らす時間となりました。

「ジョン・グールドの鳥類図譜─19世紀 描かれた世界の鳥とその時代」は、10月28日(月)から、玉川大学教育博物館に場所を移して開催されます。
新たな企画も織り込む予定ですので、東京芸術劇場でご覧いただいた方も、ぜひもう一度ご来場ください。

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