玉川大学・玉川学園Webサイト
IEサポート終了のお知らせ

玉川大学・玉川学園webサイトTOPページリニューアルに伴い、Microsoft 社の Internet Explorer(以下、IE)のサポートを終了いたしました。本学園が運営するサイトをIEで閲覧した場合正しく表示されない恐れがございます。
皆様にはご不便をおかけしますが、別のブラウザを利用しての閲覧をお願いいたします。

災害時、教員が守るべき一番大切なものとは?教育学部の原田ゼミが講演会を実施。川内村産の食材を使った学食メニューも販売しました

2022.12.16
「東日本大震災を忘れない」をテーマにさまざまな活動を行っている、教育学部の原田眞理教授のゼミナール。2014年からゼミ研修で福島県双葉郡川内村を訪れ、現地の方と交流を続けてきました。

そして震災を経験された方による講演会の実施や、被災地の食材を使用したオリジナルメニューを学食で販売するといった活動も展開しています。コロナ禍で中止していた現地でのゼミ研修を8月に再開し、10月20日(木)には学内で特別講演会を開催しました。

講演会には原田ゼミだけでなく、教育学部の鈴木美枝子教授、田甫綾野教授、中村香教授、若月芳浩教授のゼミの学生も参加。同時に18日(火)~28日(金)の日程で、川内村の食材を使ったオリジナルメニューを学食で販売し、放射線への正しい理解を広める機会にしています。

今回の講演会は「東日本大震災から学ぶ ―宮城県石巻市立大川小学校のお話−」と題して、University Concert Hall 2016で開催しました。登壇したのは、大川小学校に当時通っていた方のご遺族でもある只野英昭さんと、訴訟を担当した吉岡和弘弁護士と齋藤雅弘弁護士です。

岩手県から宮城県を緩やかに流れ、追波湾へと注ぐ北上川。北上川の河口から約3.7kmに位置していたのが大川小学校です 。2011年の東日本大震災時、大川小学校では校庭に避難していた児童70名が亡くなり、未だ4名が行方不明です。教職員も10名が亡くなりました。学校で児童が犠牲になった事件としては戦後最悪の惨事として、今も多くの人の記憶に残っています。そしてその後の検証で、震災直後に50分にわたり校庭にとどまり続けるなど、学校側のさまざまな不手際が発覚しました。さらに遺族に対する市教育委員会の不誠実な対応など、これまでに多くの問題が明らかになっています。

最初に登壇した吉岡弁護士は、まず「親が子どもを亡くすということは、その後の成長を想像することができない、非常に悲しい出来事なんですね。そして今回のお子さんたちはとてもいい先生と巡り会い、豊かな環境の中で暮らしてもいました。感謝をしていた先生に対して、なぜ裏山へ逃がしてくれなかったのかと言わなければいけない苦しさがあります。その先生方も亡くなられ、お子さんと先生、双方の遺族が共に苦しむという状況です。こういうことを繰り返してはいけないのです」と学生たちに伝えました。

今回大川小学校では多くの命が失われましたが、海から150メートル、300メートルといった立地であっても、一人の死者も出さなかった学校もあります。そして「児童の安全を、偶然や奇跡に頼ってはいけません。そのためには校長以下、教職員が公平に意見を出し合えるような職場環境を整えることが大事です。また先生たちだけに子どもの安全を委ねるのではなく、災害時の対応はもちろん、学校の立地に至るまで、行政レベルで考えていく必要もあると思います。皆さんがこれから教職に就かれるのであれば、子どもと自分の命を守るため、どうぞ安全な環境を作ることも考えてください」と、学生たちにメッセージを送りました。

続いて登壇したのは只野さんです。震災当時大川小学校に2人のお子さんが通っていて、5年生だった息子さんは津波に巻き込まれたものの一命を取り留めましたが、3年生だった娘さんを亡くされました。そうしたこともあり、震災後数年経ってから大川小学校で語り部活動をされるようになったそうです。「活動をするようになってから、校庭の真ん中で立ち尽くしている方をときどき見かけるんです。今月も、私が知る限りでも5人の方が立ち尽くしていました。中には教員の方もおられて、『あの日、自分だったら何ができるか』と語ってくれました。11年が経った今も、そうやって心を寄せてくださる方がおられるわけです。私の息子は実際に津波を体験しましたし、彼の体験や想いを、今後もさまざまな場で伝えていきたいと思っています」と話しました。

そして震災後の教育委員会の対応や、遺族が裁判を起こしてまで知りたかったこと、今日までの日々で感じたことなどを、学生たちに語られました。その中で学生たちに伝えたのが傾聴ケアの重要性です。「生き残った児童の心のケアをスクールカウンセラーがしてくれたら、彼らも胸の内に抱えたものを話すことができたと思います。けれどもそれが上手く機能しなかった。むしろメディアから取材を受けたことが、彼にとってのケアになったのかもしれない。子どもたちの話に耳を傾けることは本当に重要です。この中には教員になる方も多いと思いますが、子どもは親には心配をかけないようにと話せなかったりします。また、多くの先生も保護者も忘れなさいと言っていました。そうではなく、話してもらうことの重要性を、皆さんには知ってもらいたいと思います」。

お二人の講演後、事前の調べ学習をベースに学生から集まった質問に対して、只野さん、吉岡弁護士、齋藤弁護士に答えていただきました。「近隣の小学校と防災面での情報共有が行われていなかったのか」という質問には、「個々の学校でマニュアルを作っていますが、大切なのはそれがきちんと機能するものになっているかどうか。そのためには組織全体で取り組むことが重要だと思います」といった答えが。また「川から来た津波と陸から来た津波があったそうですが、その違いについて教えてください」という質問には、「陸を登ってくる津波は勾配のある分、威力は削がれるのですが、瓦礫などを運んできます。一方で川を遡上してくる津波は川幅に力が集中する分、逆に威力が増すんですね。特に北上川は河川勾配がほとんどないことが災いしたと思います」と、津波について具体的な説明がありました。この他にも教育委員会の証拠隠滅や嘘の説明など、亡くなった児童とご遺族の心そして尊厳を踏みにじる経緯について、その後の裁判に関することなど多くの質問が学生からあり、その一つひとつに丁寧に答えてくださいました。

左から 吉岡弁護士、齋藤弁護士、只野さん、コーディネーターを務めた原田教授
大川小学校の地形を全員で確認

講演会の最後に吉岡弁護士からは「先ほどもお話ししましたとおり、今の教育現場は校長と教職員が真剣に議論を戦わせているのだろうか。誰かの指示を俯いて待っている教員が多いのではないか。これから教員になる方々には、そこにメスを入れてもらいたいと思っています」と、齋藤弁護士からは「今日、皆さんも色々お考えになったと思います。そして感じたことを現場でどれだけ貫いていけるのか。ぜひ教育現場で、皆さんの力を見せていただきたいです」。そして只野さんからは「決して他人事に思わないでください。これは津波だけの話ではなく、あらゆる部分にかかわってきます」といった話があり、学生たちの真剣な眼差しが印象的でした。

講演会終了後は会場を食堂に移動し、学生たちが川内村の食材を使って企画したオリジナルメニューのそば粉のすいとんといちごのスムージーが披露されました。

今回の講演会で感じたこと、そして講演会の会場運営、学食の企画をした学生たちに話を聞いてみました。

大川小学校の周辺には救助された事例もあったので、非常に辛い出来事だと感じました。只野さんが最後に『命が左右される場面で、大きな声で叫ぶことのできる人になってほしい』というお話があったのですが、最初は果たして自分にできるだろうかと感じてしまいました。けれども子供を預かる立場として命を守ることは教育以上に大切なことだと、改めて強く思いました。春からは小学校の教員になります。これまで授業のやり方などに意識がいきがちでしたが、命のことを考え直すきっかけになりました。 (中村ゼミ4年:麻生育子さん)

原田ゼミでは今回の講演会に向け、個々に調べ学習を行ってきました。私は主に裁判について調べたのですが、一審と二審での争点の違いなど、実際にお話をうかがうことで分からなかったことが明確になりました。小学校の教員を目指しており子供にとって安全な教室運営を行いたいと思っていましたが、学校レベルで考えなければいけないと実感しました。何より、自分が主体的に取り組み、声を上げることができる教員になりたいと思いました。 (原田ゼミ4年:小関萌衣さん)

震災当日何があったのか、その後に何があり裁判に至ったのか、当事者の方のお話を聞くことができたのは貴重な経験でした。教員を目指す私たちが子供たちを守るために何が必要なのかを、一教員としてだけでなく、一人の人間としてさまざまな視点で考えていきたいと思いました。また学食に関してはデザートも企画したことで認知度がさらに上がっており、原田ゼミが大切にしている『震災の記憶を風化させない』が達成できていると感じています。 (原田ゼミ4年:大森優さん)

講演会の運営や学食とのコラボの機会を通して、3年生はそれぞれが責任を持って行動ができたと思います。学食のメニューを通して川内村の良さを知ってもらい、風評被害などを払拭していきたいです。 (原田ゼミ3年:林直哉さん)

撮影時のみマスクを外しています

原田ゼミでは「目に見えないこころを理解する」ことを大切に考えています。ゼミ合宿で川内村を訪れ、また特別講演会で震災当事者の方々のお話をうかがい、多くを学ぶことができたと思います。大切なのは、ここで得た知見を卒業後、教育の現場やさまざまな場面で活かすこと。震災で起きた出来事を風化させないよう、そして一人の教育者・社会人として正しい行動が行えるよう、新たな気持ちで多くのことに取り組む機会となりました。

  • 講演会にもいらしてくださった寺田和弘監督のドキュメンタリー映画、
    「『生きる』大川小学校 津波裁判を闘ったひとたち」が2023年2月から順次全国で上映されます。
    くわしくは公式ホームページをご覧ください。

関連リンク

シェアする