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「Human Brain Science Hall(HBSH)」の運用開始に続き、新体制となった玉川大学脳科学研究所の過去・現在・未来(Vol.1)

2022.05.19

今年1月、新しい脳科学研究所の中枢施設「Human Brain Science Hall(HBSH)」の運用開始により、玉川大学における脳科学研究が新たなフェイズに突入します。2022年度からは脳科学研究所に設置されたセンターが「脳システム研究センター」「脳・心・社会融合研究センター」「先端知能・ロボット(AIBot)研究センター」の3センターに改組されました。このうち「AIBot研究センター」はこれまで学術研究所に設置されていましたが、脳科学研究所との深い連携を踏まえて新たに加わったものです。
玉川大学で脳科学研究の初期から関わってきた坂上雅道脳科学研究所長に、ご自身の経歴を含めたこれまでの脳科学研究の歩みとこれからの展開について話を聞きました。

==脳科学研究所で扱う「脳科学」とは、どういったものなのですか?

坂上 遺伝子から人のふるまいまでが研究対象になる、とても深い階層で構成された研究分野です。大きく分けると、たんぱく質や細胞の働きなど「物質的理解」を図る医学・生理学・工学分野などの研究、そして個々の人のふるまいや社会・経済活動、あるいは恋愛など「機能的理解」を図る社会学、経済学、心理学分野などの研究に分けることができます。現在の脳科学は、この二つの研究領域がようやくつながり始めて、複雑な心の動きを法則化=数理モデル化する試みが着々と進んでいます。

==その時々の気分や状況などに左右されがちな人間の思考や行動を科学的に解き明かして、数理モデルとして表す…文系の人にはなかなか理解しにくい考え方です。

坂上 確かに人間の思考や行動は必ずしも合理的ではありません。たとえば「電車の中で老人に席を譲る」という問題を考えてみましょう。「今日は疲れて座りたい」「でもお年寄りを立たせておくのはよくない」などなど、意識・無意識下で無数の思考回路がせめぎあい、最終的な「意思決定」が行われます。私たちはこのせめぎあいの中での「意思決定」こそ〝思考〟のはじまりだと考えています。意思決定の場面では、複数の選択肢のうちどれが自分にとって「価値」があるのかという「報酬予測」が行われます。私たちは様々な実験を通してこうした意思決定のメカニズムを解明し、法則化しようとしています。

物事の価値を判断するのは大脳皮質前頭前野ですが、重要となるのはドーパミンの働きです。ドーパミンと言えば、一般的にやる気や快感を覚えるときに分泌されるホルモンと思われていますが、実は人が「価値」を判断するための「学習」に大きな役割を果たしていることがわかってきました。簡単に言えばドーパミンを分泌する経験が多いほど、価値判断の正確性が向上してくるというわけです。この価値判断には白紙の状態から積みあげていくモデルフリー(Model Free)型のほかに、あらかじめ決まったゴールから逆算していくモデルベイスド(Model Based)型があり、人間の知能では後者がとても発達していることが特色です。人間はこの二つを使い分けながら社会生活を送っており、「お昼に何が食べたい」といった単純な価値判断だけでなく、複雑な哲学的問題や倫理問題を考えることも煎じ詰めるとこの価値判断のメカニズムにたどり着きます。さらに私たちは芸術やテクノロジーなどの「創造」のメカニズムについてもアプローチしています。

==坂上先生はなぜ脳科学研究に取り組もうと思われたのですか?

坂上 最初は医学部に進んで医者になるつもりでした。ところが高校時代にフランス音楽やフランス文学に出会って、理系をやめていわゆる「文転」をしました。芸術表現と人間の心について知りたくて東京大学文学部とその後大学院でも心理学を専攻し、やがて脳の「機能」に関心を抱くようになり、わが国の神経生理学の第一人者である彦坂興秀先生に誘われて順天堂大学医学部で実験心理学の研究を続けることになりました。

==医学部の研究者だった坂上先生が玉川大学に移られた経緯を教えてください。

2002年研究室内

坂上 2001年のことでしたか…。それまで玉川大学の脳科学研究を牽引してきた塚田稔先生に熱心に声をかけてもらいました。当時はまだ学術研究所脳科学研究施設だった時代で、実をいうと当時の私は玉川大学のことはよく知らなかったので、決断をするまでには少し時間がかかりました。ただそのタイミングで上司でもある彦坂先生が米国の研究機関に転出されることが決まり、「研究設備はキミに譲る」とおっしゃっていただきました。塚田先生にその話をすると「ではスペースを用意しますから、設備ごとこちらで引き受けましょう!」ということになって(笑)その結果、玉川大学に国内有数の神経生理の実験施設が誕生することになったのです。そして丹治順先生や木村實先生(いずれも元研究所長・現客員教授)といった脳科学研究の第一人者、さらに社会心理学の山岸俊男先生(文化功労者・2018年没)などビッグネームの研究者が続々と玉川大学に集まってきて、新しい脳科学の拠点としての陣容が整ってきました。私の恩師である彦坂先生も客員教授として21世紀COEプログラム「全人的人間科学プログラム」(2002-2006年度 拠点リーダー 塚田稔) 、グローバルCOEプログラム「社会に生きる心の創成」(2008-2012年度 拠点リーダー 坂上雅道)などでご協力いただいています。

  • 「後編」では脳科学研究所の特色、現在と未来についてお話しいただきます。

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