「Human Brain Science Hall(HBSH)」の運用開始に続き、新体制となった玉川大学脳科学研究所の過去・現在・未来(Vol.2)

2022.05.20

==他の脳科学研究施設・機関とは異なる玉川大学脳科学研究所の特色はどういうところにありますか?

坂上 やはりスタート時点から脳科学の深い階層(前編参照)を視野に入れて、研究者・研究体制、施設の充実を図ってきたことでしょう。その結果、感覚認知と行動、推論や創造、喜怒哀楽の感情、そして知性や感情をコントロールする意志など脳の高次機能を中心にした研究成果を、心の社会性の研究、乳幼児の言語発達や認知機能の研究、さらに人間の知能の一部を数理モデルとして、新しいAIロボットを産み出すアプローチを進めるなど、まさに文理融合の広範な研究実績を積み重ねてきました。とはいえ、やはり玉川大学だけで脳科学のすべてを網羅できるわけではありませんから、国内外の大学・研究機関との連携も積極的に進め、人の心と知能の謎という野心的な研究課題に迫ってきました。1月に完成した新しい脳科学研究所の拠点HBSHには、そうした外部機関や一般社会との連携・交流を十分意識したオープンなエリアを設けています。

==今回のHBSHと脳科学研究所の改組によって、玉川大学の脳科学研究はどのように変わりますか?

AIBlot 研究センター ロボットラボ

坂上 一言でいえば、さらに一人ひとりが幸せを感じることができる社会を作る制度設計にもっと脳科学を利用できるような研究を加速していきたいと考えています。そして「AIBot研究センター」が正式に脳科学研究所のセンターになったことで、人の思考、意思決定、さらに創造の数理モデルを半導体チップに埋め込んだ新しいAIロボットの開発がさらに加速することが期待されます。
私たちが脳科学の研究を始めたころに比べて脳科学研究自体は長足の進歩を遂げています。しかしながら、その成果を私たちが暮らす社会づくりに生かせているかと言えば、まだまだこれから…というのが現状。先ほどお名前をあげた山岸俊男先生に私たちの経済社会や社会倫理に神経科学の成果を生かしたいというお話をしたことがあるのですが、山岸先生に「決して簡単な話ではないよ」と言われたことを思い出します。その時、私はハッとしました。それまでの自分が脳や神経の機能の視点でしか社会や人間というものをとらえていなかったのではないかと気付かされたからです。本来は社会や人間の側から脳科学を考えなければならないのに…こうしたことに気付けるのも文理の壁を越えて脳にアプローチしてきた玉川大学脳科学研究所ならではのことかもしれません。

脳科学研究所 組織編成

==現在、脳科学研究所で取り組んでいる研究テーマで、社会的にも注目されている研究を教えてください。

坂上 今年3月、脳科学研究所で〝主体性〟を生み出す人間の脳のメカニズム解明を研究している松元健二教授が、科学技術振興機構(JST)の「ムーンショット型研究開発事業」のコア研究に採択されました。「ムーンショット型研究開発事業」とは超高齢化社会や気候変動などいくつかの重要な社会課題の解決を目指す挑戦的、野心的な研究を募集し、採択された研究を国がバックアップする事業で、昨年秋から募集された「課題9:2050年までに、こころのやすらぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会を実現」において、松元教授の研究テーマ「脳指標の個人間比較に基づく福祉と主体性の最大化」が、「コア研究」に私立大学として唯一採択されました。先ほど私が申し上げました社会制度への脳科学の利用という観点からも非常に有意義な研究であり、玉川大学脳科学研究所の特色を発揮した研究でもあるので、本研究所としても大きな期待を抱いて、研究のバックアップを行っていきたいと考えています。脳科学研究所では、さらに幸せに暮らせる社会づくりや産業応用を踏まえた未来志向の研究プロジェクトに数多く取り組んでいます。また、今後も大学の学部やK-12との連携を一層深めながら、より実践的な研究成果を目指していきますので、どうかご期待ください。

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