玉川大学大学院教育学研究科IB研究コース・星野あゆみ教授――国際バカロレア教育の普及に教員人生をかけてvol.2――
IB教育の普及のために「IB教員養成」に尽力する星野あゆみ教授。「IB教員」をめざす学生や教員へのエールを送ります。
IB教育を受ける生徒たちの輝く目に刺激されて現場へ復帰
今年4月より、本学大学院教育学研究科IB(国際バカロレア)研究コースで教員養成の指導を担当している星野あゆみ教授。本学への着任は、奇しくも教員生活30年目の節目に当たっていました。
「東京学芸大学附属国際中等教育学校の副校長となり、立ち上げに奔走したMYPやDPが順調に実践できているか見守る立場になりました。新学校の開設に関わった10年間は無我夢中で走り続けたけれど、ふと振り返ると10年経っていて、現場で生徒や学生と作り上げていく生活が無性に懐かしくなりました。そして“また教える仕事に戻りたい”と考えるようになったのです。徐々にIB教育は知られるようになってきていて、新学校の1回生が社会人となり、IB教育の成果が目に見えて形になってきています。何より、MYPをやってみると、生徒たちはアカデミックなことに目をキラキラさせて取り組んでいる。『やりなさい』と言わなくても、自ら研究して、学外に取材に出たり。生徒たちの行動力、探索力に私の方が驚かされたものです」
IB教育の中核をなす「奉仕活動」でも生徒の成長に目を瞠ったそうです。ボランティアに出向くまで、「何の役にも立たないんじゃない?」と及び腰だった生徒たちが、多くの人から「ありがとう」と感謝されることで、「自分でも役に立つんだ」と開眼。自主的にボランティア部を作り、ボランティア活動にすっかりのめり込んだ生徒もいました。校内でボランティア募集を呼び掛けると、中学1年から高校3年まで全校生徒約700人のうち、あっという間に200人も集まったこともありました。
「長い人生の中で、学校の教員が教えられることはじつは少なくて、学外のいろいろな人との関わりから学ぶことの方がはるかに多い。IB教育には、『よりよい世界、より平和な世界を作る』という目標があり、そのために自分には何ができるかと真剣に考える生徒たちが育っているのです。
そして一つひとつの授業には工夫が必要で、教員の仕事は増えます。それでも、生徒たちのイキイキしている姿を見るとこちらも頑張ろうと思う。私たち教員は生徒の姿に刺激を受けているのです」
現場の教員がスムーズに授業を展開できるスキルを養成
玉川学園がIB教育を取り入れたのは、2007年のこと。2009年3月にMYP認定校に、2010年7月にはDP認定校となり、IBクラスとしての教育活動を展開しています。さらには、日本の教育にIB教育を普及させるためには何よりも「教員養成」が必須であるとし、IB教員の養成機関としてIB機構からカリキュラムの認定を2013年12月に受けました。そして、2014年4月からIB研究領域を本学大学院に開設し、IB教員養成を目的に教育・研究を行っています。
「4年ほど前からIB機構のスタッフとして仕事をしており、IB教育の採用を考えている学校のサポートをしています。IB教育プログラムをどのように展開していくか各校が工夫を重ねていますが、トップダウンで『IB教育をやりましょう』と言っても、IB教育に理解を深めていかないことには広がらないし、認定校にはなれません。現場の教員の力がなければ実行できないことで、草の根の教員がどれだけ頑張れるか、貢献できるかに行き着きます。そのためにはIB教員養成が急務であり、残りの教員生活をかけようと決心したのです」
星野教授は2020年から小学校高学年で英語が必修化となり、小学校での英語教育が本格的にスタートすることにふれ、「教員が十分なトレーニングを受けられずに見切り発車することの弊害は大きい」と話します。
「わが国ではグローバル人材育成のために、2018年までにIB認定校を200校に増やす目標を掲げています。たとえば200校でIB教育を実践するには、単純計算で6教科を教員1人ずつ担当すると1200人の教員が必要です。この数を確保するために、どのようにトレーニングするのでしょう。IB教員を養成するための教育現場が急務であり、IB教員養成に携わる教員も必要です。その点、玉川学園はわが国のIB教育のパイオニア校の一つとして、7年生からIB教育を取り入れ、大学入試でもDP取得者の入学審査システムを行っており、しかもIB教員養成をスタートさせています。あらゆる場面で日本にIB教育を普及させ、根づかせるためのシステムを作っています。他大学もようやく動き始めましたが、教育実習を行えるIB認定校の付属校や併設校があるのは強みです。やはり学校法人の中で、中等教育でのIB認定校と入学審査、教員養成の三位一体の取り組みが進むことが最良です。私は残りの教員人生を玉川大学のIB教員養成にかけようと考えました」
教員も生徒とともに「生涯学習者」として挑戦し続けることが大切
さて、IB教員になるための一つの方法が「IB教員資格」を取得することで、その資格はIB機構が認定するものです。本学大学院教育学研究科IB研究コースは、IB機構からカリキュラムの認定を受けており、IB研究領域で所定の単位を修得することによって、IB教員をめざす学生らを対象とするCTL(IB certificate in teaching and learning)と、IB教員として3年以上の経験を有する教員を対象にしたACTLR(IB advanced certificate in teaching and learning research)のIB教員資格を取得することができます。
国際的な教育プログラムに興味があっても、自分は英語が苦手だからと消極的に考える学生は少なくありません。
IB教員として必須の条件とは何か、星野教授は次のように話します。
「IBは語学の教育ではないので、英語ができないからIB教員になれないことはありません。英語力はあった方がよいけれど、マストではありません。うまく話すことよりどんどん話すことが重要なのです。海外で開催されたIBの教員研修のワークショップに参加した前任校の先生は、英語が苦手だったけれど、世界中の教員と授業のことで語り合う貴重な機会を経験し、『とても刺激的で楽しかったから、英語を勉強する』と英会話学校へ通うようになりました」
では、実際にどのような授業が進められているのでしょうか。
「授業を設計する時には、自分がそれまで受けてきた授業がベースになるものです。一般的に講義型の授業しか受けてこなかった教員は、なかなかそこから脱皮することができません。IB教育とは子供たちがこれからの社会で生きていくために必要な知識、スキル、態度を身につけられるような教育を目指しています。教員自身も生徒を中心にして一緒に学ぶ『生涯学習者』として、一歩踏み込んで工夫のできる教員であってほしいと思っています。
そこで、今年の4月に着任してからの授業は、参加者全員で意見やアイデアを出し合って解決策を見出すブレインストーミングなどのアクティビティを重視しています。まずはやってみることが大事です。準備万端で整うのを待っていたら、いつまでもできません。教育だから失敗は許されないので、最大限の努力が必要ですが、もしもうまくいかない所があれば、振り返りと改善を進めていくことが『生涯学習者』である教員に求められることです。教員は『これでいいのか』と思いながら授業をしても、評価されることは非常に少ない。現在は10年研修などありますが、失敗してクレームがこない限り、改善を求められることは少ないのです。IB教育では、自分の授業をよりよいものにするためには、自分は今何をしているのか、あるいは他の教科の先生はどうしているのか、教科間の連携も必要です。うまくいったところ、うまくいかなかったところをシェアし、皆で考えればよりよいものができる。生徒たちにとってよいと考えられることをどんどんやってみることが大事です」
玉川大学大学院教育学研究科IB研究コースで、これまでの教員人生の集大成と考えてIB教員養成に尽力する星野あゆみ教授。学内外から注目が集まっています。